マクロスF部屋2

□マジックワード
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「もうすぐランカちゃんの誕生日だな、アルト」


「ん、ああ」

訓練を終えロッカールームで着替えていると、後から入ってきたミハエルから唐突な話が舞い降りてきた。きっとこいつのことだ、前のプレゼントのこともあって気にかけているのだろう。


「ちゃんとプレゼント考えたか?前みたいなハエタタキ、なーんてのは却下中の却下だからな。関係も変わったわけだし」

ああわかった、お前が最後の一言で俺をからかいたいというのがよくわかった。にやにやと企んでいる顔でこちらにつかつかと寄ってくる金色にイライラが募る。


「こ、この前のはさすがに後悔した!だからずっと悩んで、雑誌とか見て考えたんだろうが!!」

そこまで言ってはっとなった。こんなこと聞かれていない。言ってしまった。と、思ったときには後の祭りで、ミハエルが目を丸くして驚いていた。


「へぇ、あの鈍感姫が、ねえ。意外すぎるな」


「…うるさい」


「じゃあアルト、お前さ…ちゃんと好きだって言ってる?」


「なっ……すっ、はあ!?」


「それとも、愛してるとか?」


「………っ、お前なあ、からかってんのか!?」


「違うよ、警告してやってるんだ」

ミハエルのまっすぐな瞳が、刺さるほど痛かった。
ランカのことはもちろん大切だけど、他の誰にもない感情を抱いてはいるけれども…そう、言えていないのだ。伝えられていないのだ。肝心のその、言葉を。


「…これだけは言っといてやるよ。今みたいにへたれてるのか、もしくは余裕かましてたら…大事なランカちゃん、誰かに掻っ攫われるぞ」






せっかく考えに考えたプレゼントを用意して、彼女の誕生日を二人で過ごせるように休みをとり、許可を得て(誰に、だなんて言わなくても知れている。証拠に馬鹿力で殴られた頬が今でもひりひりと痛い、気がする)ようやくこぎつけたというのに、アルトの心は真っ暗だった。
何故、だなんて愚問だ。ミハエルの言葉が、ぐるぐると回って、頭から離れない。不安が心を支配していて、ランカを見て安心したくて、でも会ったら怖くなってしまいそうで。
そもそも自分が悪いのだから、自ら行動しないことには何も解決しないのだけれど。



「はぁ……」

ランカとの待ち合わせ場所で、壁にもたれながら溜め息が出る。言えるならとっくに言ってる。何万回でも言ってる。でも膨らみすぎた想いと、自分の性格とか、戸惑いから、喉をつっかえて声にならないのだ。
右手にぶら下げた紙袋を、強く握り直す。これがあれば、やっと言えるかもしれない。彼女は笑ってくれるかも、しれない。


「アルトくーん!ごっ、ごめんね、遅くなっちゃって…」


心地の良いソプラノが、少し息遣い荒く耳に届いた。そちらに目を向けると、走ってきたのか肩を揺らして呼吸を整えるランカがいた。



「遅れたってほど、遅れてないぞ。それよりも大丈夫か?」


汗かいてるぞ、と彼女のあらわになった額の汗を手で拭ってやると、見開いた紅い瞳と同じくらい、ランカの頬が赤くなった。


「え、えと…大丈夫っ」

汗きたないよ、と小さく呟いたのが聞こえて、すぐさま手を離した。自分がものすごく無神経で、加えて恥ずかしい行動をしていたことにさらに落ち込む。
今日はランカの大切な日で、俺が落ち込んでなんかいられない日なのに。

「ご、ごめん…それより、」



「誕生日、おめでとう。ランカ」


唐突だけど、一番に言いたかった言葉を言った。今日になってすぐ電話でも言ったけど、彼女の顔を見て、ちゃんと言いたかった。


「ありがとう!アルトくんっ」


誕生日の祝いの言葉を言うだけで、こんなに嬉しそうに、本当に、本当に幸せそうに笑う彼女。眩しかった。自分の中の暗い、沈んだ気持ちが照らされたような気持ちになる。
それなら、俺が言えない言葉を言ったら、どれだけ喜んでくれるのだろう。どんなふうに笑ってくれるのだろう。
純粋に、怖いって思う。でもそれ以上に知りたいと思う。それに、彼女なら、きっと。




「ら、ランカ」


「なあに?アルトくん」

にこにこと、俺の言葉を待つ。ああそうだ、いつも待っていてくれたのか、いつも、そうだったのか。



「ランカ、俺は…おまえのことが、すきだ」


「ランカの笑った顔がすきだ、歌ってる、話してる優しい声がすきだ、いつも頑張ってるところがすきだ」


言ってしまえば、思ったよりもするりと言葉は出てきた。ぽつりぽつりと、確かめるように、噛み締めるように紡ぐ。
ランカの瞳からは、綺麗な雫がいくつも流れていた。それすらも、愛おしくて、俺のものにしたくて。彼女の目尻に自分の手を当てた。


「ランカが泣いてたら、泣き止ませたい。涙を拭ってやりたい。お前が悲しいって思うもの、苦しいって思うものから、俺が、守りたい」


すき、あいしてる、
そんな言葉じゃもう足りないんだ、だから俺は君に伝えられなかった。

うまく、このあふれる気持ちを言葉に出来なかった。
それでも、君は




「……っ、アルトくん、私も、アルトくんのこと、だいすきだよ」


そうやって、涙でぐしゃぐしゃになりながら言ったランカの笑顔は、綺麗に晴れた今日の青空みたいだった。




(きみの嬉し泣きがやんだら言おう)

(今日いちばん言いたかったこと)



「生まれてきてくれてありがとう。ランカに会えて、よかった」

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