マクロスF部屋2

□sweets Valentine
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キッチンから甘い甘い香りがする。
その香りが立ち込めるリビングで、アルトとブレラは無言で流れるテレビを見ていた。

あちらからは何やら楽しげな話し声や笑い声が聞こえて来る。こっちとは正反対だ。
アルトがそわそわする中、ブレラはいつもと何ら変わらず無表情のまま。


何故こんなことになってしまったのか。そんなの、アルト本人が聞きたいぐらいだ。
バレンタイン当日に恋人同士のランカとアルトは休みを貰い、二人きりでアルトの家で過ごす予定だった。予定、だったのだ。つい昨日までは。
バレンタインの事を聞き付けたブレラがまずついていくと言い出し、それを隣で聞いていたシェリルも「なら私も行かなきゃね!」と訳のわからないことを言ったのだ。
本当にわからない。わかりたくない。よりによって厄介なこの二人に見つかってしまったのが不幸だ。

渋々ランカに報告すると、むしろ喜んでいた。兄のブレラには少し呆れていたようだが、シェリルとチョコレートケーキを作る約束が出来たのがものすごく嬉しかったようだ。
ランカの無邪気な笑顔に、まあいいかと思えたのだが。
今のこの空気はいたたまれない。



「早乙女アルト」


「…な、なんだよ」


「俺は貴様の事を認めた訳ではない。ランカに妙な事をしたら抹殺するからな」


「なっ、お前には関係ないだろ!…だいたいなんでこういう日について来るんだよ……」


「こういう日とはどういう日だ?まさか貴様、バレンタインとかいう浮足立った日に便乗してランカにいかがわしい事を要求するつもりか?……やはり許さん!」


「勝手に変な想像するな!!」


そんな事するものか、と言い切れない自分が、一番悲しい。
そんなアルトに気付いているのかいないのか、いよいよブレラが自慢の拳を振り上げようかという、まさにその時。


「アルトくん、ブレラお兄ちゃん、おまたせー!」

とびきり明るい声が二人の険悪な雰囲気を断ち切り、飛び込んできた。その声の主はもちろんランカだ。
今にも喧嘩が始まりそうな二人にまったく気付かず、両手で大事そうにチョコレートケーキを持ってぱたぱたとかけてくる。
その後ろではシェリルが呆れ顔で鼻を鳴らしていた。


「…あー、ええと、もう出来たのか?早かったな」


「うんっ、二人でやったから思ったよりも早く出来たんだ!あんまり甘くないように、ビターチョコで作ったんだけど…」


「そっか、ありがとな」

翡翠の髪を撫でてやると、くすぐったそうに笑った。
お互い顔を見合わせて笑っていると、何やら刺さるような視線を感じた。


「……早乙女アルト、そこから離れろ。そしてランカに触るな」


「アルトのくせに、なーにいっちょ前に甘い空気醸し出してるのよ」


「くせにとはなんだ、くせにとは!」

理不尽な横槍に怒りを露わにして叫ぶと、隣からちょいちょい、と服の裾を引っ張られた。
相手は誰だかもちろんわかっているので、怒りの表情をなるべく引っ込めて振り返る。


「アルトくん、ちょっとこっち!」

どうしたんだ、と聞く間もなく、リビングのドアの方へぐいぐい引っ張られていく。


「おっ、おい、ランカ?何だよいきなり」


「しーっ、アルトくん喋っちゃだめ!」

部屋を押し出されドアを閉めた、と思ったら、5cmほどドアを開けて部屋の中を覗き込むランカ。
まったく、全然、ちっともランカのしていることが理解できない。


「こらランカ、本当に何なんだよ」

先程静かにと言われたので、仕方なしに小声で話しかける。振り回されっぱなしなので仕返しとばかりに頬を軽く抓ってやった。
不機嫌そうにするアルトに、ランカは髪をぺたりと沈ませた。


「ふぉっ、ふぉめんねはるほふん」


「………ぷっ」


「ほー、ははひへほー!」

ランカの何を言ってるかわかるけどおもしろい喋りに涙が出るほど笑っていると、彼女は顔を真っ赤にしてアルトの胸を叩いた。
そろそろ拗ねる頃だなと離してやれば、解放されたランカはやっぱり拗ねていた。


「ごめんって、ランカ」


「もお、アルトくんには教えてあげないっ」


ぷい、と顔を背けて再びドアの隙間を覗きはじめたランカにばれないようにもう一度笑って、アルトもランカに続いた。
ランカに聞かずとも、きっと見ていればわかるのだろう。
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