マクロスF部屋2

□6.このさいテレパシーだろうが超能力だろうがなんだっていい!
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ランカは今、戦っていた。
自分自身と。自分の、欲望と。


アルトと付き合い始めて1ヶ月。
片思いだった時はまさか付き合えるなんて、思っていなかった。
彼は、あの素敵な人との方がお似合いだと思っていた。

でもそんな不安を全部打ち消すように、アルトは言ったのだ。「ランカが好きだ」と。


あの時はうれしくてうれしくて。なかなか泣き止めなくて大変だったなぁ…。

と、逃避してしまいそうになる心を、現実になんとか戻す。



そう、そんな事を乗り越えて、今。
何回目かのデートの帰り道を、アルトと二人歩いているのだが。


半歩前を歩くアルト。ランカに速度を合わせて歩いているのがわかる。
そのアルトが歩く度に振る、両肩から伸びた腕。その先にある、手。これがランカの本日の葛藤の種だ。


初めは、ただ。ただ、彼の隣を歩けるのが嬉しかった。幸せだった。

でも、今は。



「…い、おい、ランカ!」


「ふぇっ!?」


「お前、今俺の話聞いてなかっただろ」


「…えっ、と…」


「というか、今日ずっとだな」


「う…」


「なんか、上の空だ」


アルトの少し不機嫌な声と的確な言葉が胸に刺さる。自然と俯いてしまうのが自分でもわかった。


「ご、ごめんなさい…」


「……俺といるの、楽しくないか?」

嫌われちゃう、いやな子だって思われちゃう。
そんな事ばかりが心を占めていたが、アルトの思いもしない言葉にランカは顔を上げた。


「え……?え?」


「…………」


ランカの混乱を余所に、アルトはこちらをじっと見たまま、口をつぐんでしまっている。


「えっと、違うよ?あの、ちょっと考え事してて…」

何を、だなんて口が裂けても言えないけれど。
でも、きっと。心配性の彼は。


「考え事?何か悩みでもあるのか?」


やっぱり。優しいから、こうやって聞いてくれるのだ。
さっきの不機嫌そうな顔とは打って変わって、少しだけ眉が下がった、心配そうな顔をしている。



(あ、こういう顔、すきだなぁ)


心がきゅんっ、と鳴るのがわかった。
アルトの隣にいるだけで、この音がいっぱい増えてたまっていく。



「おい、ランカ?大丈夫か?」


相当ほうけた顔をしていたのだろう。アルトが先程よりも心配そうな顔で、ランカの頭にぽん、と手を置いた。

さっきよりもずっと近付いた距離、頭に置かれた手に顔が熱くなる。


「本当に大丈夫か?早く帰るぞ」

ぐい、と腕を引かれ自然と足が前に出た。
握られた右腕が、あつい。
この手がもうちょっと下がって、くれれば。


「う…あう……」


「ん?」


ランカの言葉になってない呟きに、アルトが振り返る。
声の張本人であるランカは、口を半開きにしたまま目を潤ませ、顔を真っ赤にしていた。


アルトくんの長くて大きな手と、手を繋ぎたい。
それが今日の悩み。いや、願いだ。広がってしまった「幸せ」の範囲。

触れられた事で妄想が広がり、それだけで恥ずかしくていたたまれなくなってしまっていた。




一方、アルトはアルトでランカの悩ましい顔に混乱中だった。

俺、何かしたのか?なんで、そんな…
いたたまれなくなるような、手で、いや全身で彼女を覆ってしまって、他の誰にも見せたくなくなるような顔をしているのだろう。

ぐるぐると渦巻く、彼女に触れたいと突き出そうな本能を必死に抑えていると、ふいにランカの視線がアルトの顔からすすす、と下りていった。
それを追っていくと、辿り着いたのは自分の右腕。彼女の細い腕を無造作に掴んだ、妙に大きくがさつに見える、腕。


(う、わ)

「わ、悪い!……腕」


反射的に離した。嫌われたくなくて。これ以上掴んでいたら、何か壊してしまいそうで。


「えっ?あっ」

離さないで、と都合の良い言葉が聞こえてきそうだ。いや、そのくらいの勢いだった。
ランカの腕が、アルトの服の裾をぎゅっと握っていた。


「あの…あの、ね?」


「な、ん…だよ」


「て…」


「…て?」


「て」と言ったきり黙り込んでしまったランカ。
本当に都合の良い解釈をしてしまうと、手を繋ぎたい、ということなのだろうか。違ったら恥ずかしくて仕方ないが、これはたぶん…間違ってない。と思う。
ランカの性格上、繋ぎたくても言えない、といったところか。
大胆な行動をしてたまにこちらを驚かせるのに、こんな些細な事で口をつぐんでしまう彼女がすごく、なんというか、かわいい。


いよいよ涙が零れそうになりながら、アルトに伝えようと震えている手をそっと、そっと握った。
それを合図に、真っ赤な顔が勢いよくこちらを見上げた。顔の赤とは少し違う赤色をしたランカの瞳に「これで合ってるか?」と無言で語りかけてみる。
何回か瞬きをした後、通じたのか髪をぶわっと浮かせて、こくこくと大きく頷いた。
少しすると、そっと、手が握り返された。


自分の都合良い解釈が間違ってなかった事に心底安心していると、ランカから小さく笑い声が漏れた。
ちらりと見てみると、それはそれは満足そうに、幸せそうにふにゃりと笑っている。
これはもう、俺はどうしたらいいんだろうか。
そんなかわいい顔をされたら、手を繋ぐだけじゃ満たされない。抱きしめたい。


そう思った瞬間に手を繋いでいない腕が彼女の背中に伸びたとき、ああ俺も男なんだって、何故かぼんやりと思った。


「……ぁ、あの、あるとく」


「手、いくらでも繋ぐ。繋ぐから」


少しこのままでいさせてくれ、と掠れた声で呟いて、華奢なランカの身体をぎゅうと抱きしめた。
大混乱中だったランカも、小さくうめき声を上げた後、小さく頷いて大人しくなった。






6.このさいテレパシーだろうが超能力だろうがなんだっていい!



(これじゃたりない、たりないんだ)


(しあわせでしあわせで、爆発しそう)



(なんだっていいから、このきもち君に伝えて!)

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