マクロスF部屋2
□over flow
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バジュラがフロンティア船団を襲ってから、いろいろな事が変わって、動いた。
船団は損傷が酷く、復旧に時間がかかった。学校や会社が休みになった。街に出る人が少なくなった。
そして、私は。
シェリルさんとのライブで話題になって、少しずつ、でも確実に夢に向かって走り出していた。
私の歌をみんなに届けたい、その願いに。
でもその中で。日常が、だんだん壊れていく。遠くなっていく。
確かにそう、感じた。
私にとっての日常は、友達。お兄ちゃん。
バイト。その出前。
大好きな大好きなシェリルさんの歌を聴くこと。
そして。
「ごめんねアルトくん、訓練とか任務で疲れてるのに送ってもらっちゃって」
「いや、こんぐらい平気だ」
少し前まではしょっちゅう行っていたSMSへの出前。
今日来れたのはたまたまお仕事がなくて、娘娘のアルバイトを頼まれたから。本当に、偶然だ。
その帰り、訓練を終えたアルトと会った。そこにちょうど居合わせたミシェルがアルトにランカを送っていけと促した。(にこにこと、なんとも楽しそうだった)ランカは断ったが、少しの沈黙の後に「…送ってく。行くぞ」とぶっきらぼうな声が聞こえたため、素直に送ってもらうことにした。(嬉しくて二の句が告げられなかった、とも言う)
「仕事、どうなんだ?」
「あ、うん、いろいろやらせてもらってるよ。そうそう、今度シェリルさんと共演するの!」
「へぇ、順調だな」
「、うん!アルトくんはどう?」
「俺は、鬼隊長…じゃなくて、お前のお兄様とかミシェルに相変わらずしごかれてるよ」
「そっか、アルトくんも順調…かな?」
「あぁ、まあな。」
「うん……」
「どうした?」
会ったときは元気ないつも通りのランカだったが、アルトの言葉に対する相槌ともとれない声が今俯く彼女から漏れた。
アルトが様子に気がついてランカを見ると、はっとなってすぐに笑顔を浮かべた。
「あ、ううん、なんでもないの!久々のバイトで緊張しちゃったかな」
「ちょっと前までは毎日のように行ってただろ?」
「あはは、そうなんだけど」
嘘ついてごめんね。
私はうまく笑えてる?
その毎日が永遠に続くものじゃないって、わかってしまったから。
やっぱり、うまく笑えてない、かも。
彼の心配そうな視線がちくりと胸に刺さった。
「送ってくれてありがとう!」
調度到着した自宅の玄関に背を向け、その視線を吹き飛ばすように精一杯明るく笑った。
だってこれは私のわがままで、甘さで。そして漠然とした不安でしかない。
「ああ。じゃあ、またな」
「うん!またね」
こちらに小さく手を挙げて笑う横顔に笑いかける。
また明日も、その先も、私は大好きなこの人の綺麗な横顔が見れるんだろうか。
まぶたがじわりと、あつくなった。きらきら揺れる蒼い髪を焼き付けるように。
瞳に膜がはって、うまく見えなくなる。くすんでぶれた写真みたいになってく。
「……………っ」
交わした『またね』の言葉に胸が詰まる。
ねぇアルトくん、あの日、この世界がバジュラに襲われたその日から、私の日常はちょっとずつ消えていってる。
きっと、アルトくんの日常も。
今でも考えるの。
どうしてあの日、バジュラは私を狙ったのか。
またバジュラが襲って来たとき、きっと私は……
「ひゃっ!」
突然の額への攻撃に、思わず変な声を出してしまった。
何か当たった…?
地面を見ると、見慣れた紙飛行機。他のとなんて、見間違えるはずがない。
地面から正面に視線を移すと、こちらを向いている、紙飛行機を飛ばした張本人のアルトがいた。
「ランカ!その紙飛行機、お前の所に届けって思って折って飛ばした!」
「へ?え…?」
珍しく大きな声で叫ぶアルトを、何が起こってるかわからないまま目を見開いて見つめる。
「そうしたら、お前の所にちゃんと届いた!!だから」
15メートルくらい離れたところでもわかるくらい、大きく息を吸って、こちらをまっすぐ見つめられた。
私も目を、離せない。逸らしたりなんか、できない。
「ランカの歌も、必ず届く!!」
ふう、と息をついて、満足げに笑うアルト。
彼はとても、とっても優しいから。たぶん私が仕事のことで思い悩んでいると思って、勇気付けてくれたのだろう。申し訳ないけど、それは不正解だ。
でもそれでも、間違っててもなんでも。
そんなこと吹き飛んじゃうくらいに、嬉しくて嬉しくて、仕方ない。
だから
「…っアルトくん!ありがとーー!!」
彼に負けないくらい、大きな声で、叫んだ。
目をぎゅっとつむった瞬間に、涙が宙で弾けた。
遠くなっていく大きな背中に、揺るがないもの、変わらないものを見つけたよ。
この世界がどんなふうになっても。
私がこれからどうなってしまっても。
きみの味方が誰もいなくなってしまっても。
きっと、ずっと
あなたのことが
誰よりもたいせつだよ
over flow
(ずっと あいしてる)
(あいしてる)