リトの英傑様と風の巫女のお話

□風のみぞ知る
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『あー!勇者様だ!お久しぶりでふぉわっ!!?』

憧れの勇者様がリトの村にいらっしゃった。久しぶりにお姿を見られたことが嬉しくてテンションが上がる上がる。が、そんなところに我が村から選ばれた英傑 リーバル様が崖下からぶっ飛び上がってきたおかげで、びっくりして女にあるまじき声が出てしまった。
勇者様は突然の突風とリーバル様の出現に少し驚きながら、変な声をあげた私に対し苦笑いを浮かべた。



「どうだい今の?
君にはとても真似の出来ない芸当だろ?」

勇者様と私に対してどや顔で技の自慢と説明をし出したリーバル様。
いや、どうだい?とか言われてもさ、私その技見せられたのも説明されたのもたぶん100回は超えてんだけど。何せ顔を合わせるたびに見せられているのだから。そんな毎度毎度同じ技見せられて感想求められてもねぇ、同じ言葉しか出ないってものだよ。

最初はすごいと思ったし、正直かっこいいとも思った。だからと素直にそれを伝えてみたら調子に乗ってこれだよ。いい加減面倒くさいから私は

『わー、リーバル様すごーい。かっこいー』

「フン、当たり前じゃないか。僕は気高きリト族が一人、英傑 リーバルだよ?」

とまぁ、毎回拍手とともに同じ感想を吐くことにしたわけだけれど、それでもリーバル様はこんな感じで満足気に鼻を鳴らすから、何度同じ技を見せられてぶっちゃけ飽きてきていたとしても、まぁ彼が満足しているならいいかという気にもなる。うざいけど。うざいけど




「そして一族でも最高と称えられる弓の使い手……つまりこの僕リーバルこそ、厄災討伐の要に相応しい戦士って事さ。……なのに僕に与えられた役目は君の援護だ。
君がその古臭い退魔の剣とやらの主ってだけで!」

愚の骨頂だよね。
先程とは対照的に、リーバル様は不満気に鼻を鳴らして吐き捨てた。勇者様はそんな彼の態度に困ったような表情を浮かべる。すみませんね勇者様、このヒトのこの性格はこちらが我慢するしかないんです。


いやでもさ、私部外者だけど言わせてもらいますよ心の中で。
リーバル様の弓の腕前が最高だってことは事実だとは思う。どんな的でも百発百中だし、何より一族の中で誰も扱うことが出来なかったオオワシの弓を難なく扱えるのだから。
でも、厄災討伐の要がリーバル様ですと?それはないわ。ないない。それは調子に乗りすぎだわ。弓矢に退魔の力が宿っていたりするのならもしかしたらあり得たかもしれないけれど、ただの弓矢でそれはないわ。退魔の力の有無は大きいよ。





「ははははは!」

『…うちのリーバルが失礼しました勇者様』

「いや、気にしてないよ」

『きっと…いつかリーバル様も、勇者様を認めなくてはいけない時が来ると思うんです。
ですからその時まで無視していただいて構いませんので


勇者様に喧嘩を売りまくったリーバル様は、メドーに向かって飛んで行き楽しそうにくるくると回っている。いくら英傑でもさすがにあの態度と高笑いはムカつくなぁと、ついつい言葉が強くなってしまう。勇者様はまた苦笑した。

リーバル様へ向ける顔と同じ顔をされてしまったことにややショックを感じ、話を変えようと話題を探す。



あ、

『そういえば今日はお姫様はいらっしゃらないんですね』

「ゼルダ姫は今族長と話しに行ってる。
楽しそうだったから俺だけ先にリーバルに挨拶しとこうと思ってさ」

『あー、なるほど…』

族長様もお姫様も、遺跡とか古代の遺物とか大好きだもんなぁ。きっと熱いトークを交わしているのだろうし、たぶんすぐには終わらないだろうから勇者様の判断は正しかっただろう。


「俺、遺跡のこととか全然分からないからさ、ゼルダ姫が話を振ってきてもいい感じの相槌がうてなくて可哀想で…。ストレス発散になるなら良かったよ」

『そうですね。でも勇者様にもそれは言えますからね。ストレス発散は大事ですよ』

「俺はこうして誰かと話してるだけで楽しいからいいんだ」

『なら良かったです。またいつでもいらしてくださいね』

笑ってそう言えば勇者様も柔らかく微笑んでくださった。あぁ、笑顔が眩しい。



「たまには君の方が遊びに来てくれてもいいんだよ?」

『無理ですよ〜。だって私、ヘブラ地方から出たことないですもん。
それに、勇者様もお姫様も、あちこちを旅してるからお城にいることが稀なんじゃないですか?』

「あ、それもそうだな。…じゃあシナトも俺達と一緒に来なよ。広い世界を見たいだろ?」

『広い、世界…』

心が揺らぐ。最近、魔物が増えてきて物騒だからとリトの村からすら出られていないというのに。主にリーバル様に止められるからなんだけど。
子どもの頃は好奇心からちょっとゲルドの方まで行ってみようかななんて思ったこともあったけれど、あの時は砂漠が視界に入った時点で萎えてやめた。死ぬわ。

でも、砂漠とか暑いところは嫌だけど、一度でいいから海は見てみたい…かも。


「君、何ヒトの仲間を僕の許可なく勧誘してるんだい?」

『あ、リーバル様。戻ってきたんだ』

「勧誘だなんてそんな…ただのお誘いだよ」

「駄目に決まってる。どれだけの魔物がうろついているか、君の方がよく知ってるだろ。それとも、そんな危険も見えないほどに君の目は節穴だとでも言うのかい?」

うわ…なんて言い方だ…。
どれだけ私を村から出したくないんだこのヒト。


「リーバル、君はシナトの目をちゃんと見たことがあるか?」

「は?シナト?」

『私?』

いつもなら苦笑いで済ませている勇者様だけれど、今回は何故かそんな風には終わらず、リーバル様の疑問に対して意図がよく分からない疑問を返した。
そして何故そこで私が出たし。

「こんなに外の世界に目を輝かせてるってのに、君は何もしてあげずに、それどころかここへシナトを縛り付けるしか出来ないのか?」

「なんだと?」

『ちょっ、ストップストップ!!勇者様もリーバル様もストップ!!一旦やめましょ!ね!』

外に出たい私としては勇者様の援護射撃は嬉しいが、リーバル様の後のことを考えるとぶっちゃけ面倒くさいからやめてほしい。プラマイマイナスだわ。
リーバル様なんて、止めるのが遅かったらオオワシの弓を構えてたねってレベルでブチ切れていたので、とりあえず勇者様には、私がリーバル様を抑えて(物理)いるうちに彼の視界から立ち去っていただいた。雑な扱いをお許しください勇者様。



「全く…君も君だよ。あんなにへらへらと笑っちゃってさ」

『いやそんなへらへらしてないですよ私』

「いいやしてたね。僕はばっちりこの目で見たからね。
ただでさえだらしない顔をさらにだらしなくさせて…君には恥というものがないのかい?」

え、なんで私ディスられてんの?二人の言い争いの一番の被害者私じゃん。
まぁ慣れてるけどね、こういう扱い。さすがに今日の二人は予想外だったけれど。あぁ…思い返すと悲しくなるよ。同じ目的のために集った仲間だというのに。

彼の言葉に反応しないで俯いていると、私が泣いてしまったとでも思ったのだろうか、彼は私の顔を覗き込もうと腰をかがめた。が、いかんせん私とリーバル様では身長差があり過ぎる上に私が咄嗟に顔をそむけたのでそれは不発に終わる。
頭上から舌打ちが聞こえた。ええ…今の私が悪いの?急に顔が近付けられたら普通そらすでしょ。え、これ非常識なの?



「……シナトは…この村を出たいのかい?」

『多少は。こんなに遠くからの景色じゃなくて、ヘブラ以外の大地を間近で見てみたいなって気持ちはありますよ。でも、ここを出て行きたいわけじゃないです』

「でも君は自分の身を守る術を持っていないだろ」

『そうなんですよ。そこが問題なんです』

そう、恥ずかしながらこの私シナトはただの人間であり、色々あってリト族の一員としてお世話になってはいるけれど、周りのヒトはみんな弓の扱いが上手だけれど、リト族の中でも最高と称えられる弓の使い手が幼馴染にいるけれど、……小さい時からずっと弓矢の練習をしていたけれど、だけど弓の腕は上達しなかった。
今ではもう弓を触ることもやめてしまったけれど、でも、

『見てみたいなぁ…海』

発着場の縁に、宙へ足を投げ出すようにして座ると、隣にリーバル様も腰掛けた。なんの気なしに隣の彼を見上げれば、彼はどこか遠くを見据えている。


「翼のない君があまりにも可哀想だし、仕方がないからこの僕が直々に君へ海を見せてあげるよ。…全く、感謝してくれよ?」

『え、本当ですか?!』

あのリーバル様が私如きにそんな優しさをくれるだなんて思いもよらなかったために、ついつい彼の方へと身を乗り出してしまった。
私が思いのほか食いついたことに驚いたのか、リーバル様は私から距離をとるように後ずさる。

『あ…すいません…』

「いいよ別に。…少し驚いただけだから」

お互いに態勢を立て直し、気まずい雰囲気になったところにリーバル様が咳払いを一つ。

「でもすぐには無理だ。厄災をどうにかして、その後だったら時間を作ってあげるよ。すぐにとか、我が儘言わないでよね?」

『十分です。…ありがとうございます』

「…それと、僕以外にそんなに………」

私から目をそらした後に彼が何か呟いたように感じたけれど、突然吹いた風によってその後は聞き取れなかった。


『えーっと…リーバル様、今なん』

「っ馬鹿!何でもないよ!」

『わふぁっ!』

今何て言ったんですか?
と聞こうとリーバル様を見上げたら、突然彼の手…いや、羽?が顔に覆いかぶさってきた。わぷっ、なんだいきなり。
そして急に視界が明るくなると、その時には既に彼は空の上で私を見下ろしていた。

「とにかく!あいつなんかと一緒に行くことは僕が絶対に許さないからね!」

『あ、はい…って行っちゃったよ……』

私の返事を聞く前に、彼は上昇気流を発生させて空の上まで飛んで行ってしまった。その先には我らが神獣ヴァ・メドーが飛んでいる。きっとまたあそこに行ったんだろうけれど、あそこは彼の憩いの場なのかな?よく分からないけどいつか行ってみたいものだ。





いやー、それにしても…


『リーバル様、さっきは何て言ったんだろう…』










風のみぞ知る










「僕以外にそんなに笑顔を振りまかないでよ」
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