妖狐

□妖狐 独り語り
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艶のある髪
キメの細やかな肌
非力な体
丸い潤んだ瞳




この手の中に閉じ込めておかないと
目の届かないところでいつの間にか死んでしまってもおかしくない




だからこうして、私が守っていなければ
何よりも大切な鏡花を失ってしまう
こんなにも1人の人間を「愛する」ということを
鏡花に出会わなかったら理解できなかっただろう




彼女は、私の全てだ…
私は鏡花が愛しくてたまらない
400年生きてきて、こんなにも自分以外の存在に肩入れするとは思わなかったし
そんなことするつもりもなかった




たかが数十年しか生きていない人間
そしてこれからもあと数十年しか生きられない人間
彼女の一生という時間は、私のこれから生きる悠久に近い時間に比べたら瞬きほどの時間にすぎない




私と鏡花が共に時を刻めるのは限られている
これまでの400年、あっという間だった気もする
それなのに鏡花と過ごす時間はまだ数年しか経っていないのにとても濃密で、かけがえのないものに思う




「鏡花」




愛しい人間の名前を呼び、後ろから抱きしめると腕の中にすっぽりとおさまる
この借り物の体ですらこんなに体格差があるのだから人化の術を解いたらこの体を包み込むなんて容易い
私の体全てを捧げて鏡花を守る




「好きだよ、玉藻先生…大好き
ずっとずっと、こうして一緒にいられたらいいのに」

「私も愛していますよ鏡花
貴女が望むと望まないに関わらず私は貴女を離さない
永遠にこの手の中に抱いて、変わらずに愛し続けます」

「うん…」




口先だけでは、永遠なんて言葉
簡単に紡ぐことができる
しかし、私も鏡花もわかっている
この関係に永遠なんてありえない
だから、一瞬たりとも手放したくない




「片時も離れたくない…、こうして玉藻先生に抱き締められたまま朽ちてしまいたい…」

「……鏡花」




彼女の望みを今すぐこの場で叶えてやることなんて造作もない
だが、私にはそれはできない
今彼女に朽ちてもらっては困る、100年に満たない短い彼女の時間を全て私のものにしたい
彼女を失った暁には、彼女との時間を振り返り噛み締めながら残りの悠久の時間を過ごそう




彼女を振り向かせキスをする
温もりのない私の体に、人間の温もりをくれる鏡花
その温もりが愛しくてたまらなくて、さらに深く彼女の温もりを求め貪った




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