妖狐

□壁
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私と玉藻先生には越えられない壁がある


種族の壁
私はただの人間で、玉藻先生は妖怪だ
そもそも妖怪の存在なんて信じていなかった
でも、確かに世の中には私の理解の及ばない存在が数多くいる


玉藻先生もその1つ
こうして普段一緒にいるときは人間の姿をしているが、彼の本当の姿は白い美しい妖狐だ


400年も生きてる玉藻先生と
たかが数十年しか生きていない私


これからも悠久の時を生きるであろう玉藻先生
100年生きられるかもわからない私


ただの人間である私が、玉藻先生と一緒にいていいのだろうか、なんて思うことは何度もある
朝起きて今までのことが全て夢でもおそらくショックなんて受けないだろう
「当たり前だよね」と納得できてしまうだろう




「鏡花」




朝起きて、玉藻先生に名前を呼ばれて髪を撫でられる時、私は心の底から安心する
夢じゃない、玉藻先生が目の前にいる、目覚めた瞬間この世で最も愛しい人を見られる幸せを噛み締めて朝を迎えるのだ




「おはよ、玉藻先生」




普段は1つに束ねられている美しい長髪が、ベッドの中ではおろされていて触り心地のよい髪に指を絡める
玉藻先生は目を細めて私を見つめた、優しい眼差しに心が跳ねる




「ん?なに?」

「いいえ、朝から随分と幸せそうな顔をするんですね貴女は」

「だって、幸せなんだもん
朝起きて目の前に玉藻先生がいるだけで…安心するの」

「一緒に暮らしているのだから当然では?」

「ううん、1つも当たり前なんてないよ
玉藻先生と一緒に住んでることも、こうして同じベッドで寝てることも、こうして玉藻先生に触れられることも、何1つ当たり前なんかじゃないよ
とってもとっても、素敵な奇跡なの」




玉藻先生の体に触れる
この体は人間の体だけど玉藻先生の体じゃない
南雲さんっていう人の体
この体に体温は無い、南雲さんは死んでる人だから玉藻先生の体は氷のように冷たい


この体に触れるたびに、玉藻先生は人間じゃないことを実感する
血の通った私の肌と違い、血の気のない白い肌の玉藻先生の頬に手を伸ばす




「本当に見ていて退屈しない顔ですね
幸せそうに頬を緩ませているかと思えば、泣きそうな顔になってみたり」

「え、」




はっとして目を見開く
そういう玉藻先生だってすごく悲しそうな顔をしてる
どうして?玉藻先生もそんな顔するの?




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