監督の部屋

□繋ぐ
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暗い部屋に私はいる
ここがどこなのかも定かじゃない
ひとつだけ確実に言えるのは私は自分の意思ではここから出られないということ




「蘭 いい子でお留守番していましたか?」




2mを超える長身の男が私に言う
見るからに物腰の柔らかいこの男に、私は自由を奪われている




「ここから、出して…」




懇願ではなく、はっきりとその男に言う
キッと目に力を入れてその男を睨んでも、そんな私の視線を全く気に留める様子もなく笑みを浮かべて近づいてくる




「まだそんな目で僕を見るんですか?
怖いなぁ、こんなに美人にそんな目で見つめられたら我慢できなくなる」

「見つめてなんていません
齋藤コーチ、お願いです…」




綺麗な笑顔の裏に、黒い感情を隠してあなたは私に言う




「蘭」

「っ…」




細く長い指が私の顎をとらえて背の高い彼と視線が絡むように持ち上げられる




「僕は、君を愛している」

「っ…」




心臓がはねる、頭ではわかってる
この胡散臭い笑顔に何度騙されたことか…
その結果がこれ、私は自由を奪われた
それなのに私の心はまだあなたに惚れている
愛してる、という上辺だけの言葉にこんなに歓喜してる
なんて愚かなんだろう…




「奥さんも子どももいるくせに…」

「そう、妻も娘もいる
それでも僕は、こうして君を繋がずにはいられない
どうしてだかわかるかい?」

「知りません」

「嘘…君みたいに頭のいい子ならわかってるだろう?蘭、君を愛しているからだよ
誰にも僕らの関係がバレないようにこうして君をここに繋いでいるんだ」




深い瞳に吸い込まれそうになる
この人はテニスの日本代表でメンタルコーチを務める人だ
心理学やらの知識は多分にある、そんな人に私の幼い精神で勝てるはずもない

幼さゆえの虚勢をはって、あなたに反抗するしか私にはできない

この試すようなキスを拒むことは、私にはできない

私も、あなたを愛してしまっているから




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