中学生

□求めるほどに
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本当に欲しいものはいつも手に入らない
親からの愛も、愛する女からの愛も__________




「痛いっ…離して…」

「何故だ…」




何故なんだ
神に与えられた恵まれた美貌
屈辱と血の滲む努力の末に手に入れた力
幼い頃から叩き込まれた知識と教養
育った環境によって培われた溢れる気品
女に困ったことは無い
欲しいものが手に入らなかった事もない

俺が今まで唯一手に入れられなかったものは両親からの無償の愛だけだった
それなのに、また1つ手に入らない物が増えた

この世で最も愛しいと思った女からの愛
こんなにも恵まれた俺が、まさか愛を手に入れられないだなんて笑える




「何故 俺を選ばない、俺ならお前を愛してやる
欲しいものがあるなら与えてやる
それなのに、どうしてお前は…」




俺じゃなく、あいつを求めるんだ…
あいつはお前を愛してなんてないない
あの男は1人の女に本気になったりしない
お前を幸せにしてやれるのは俺なのに、どうしてお前は俺にしない




「私は侑士が好きなの
景吾の気持ちは嬉しいけど…ごめん」

「あいつはお前のこと愛してなんていない」

「…っ、そんなの…わかってる」

「それなら」

「でもっ!…それでも、私は侑士が好きなの
どうしようもなく侑士が好き…
たとえ遊びでも、侑士の側にいられるならそれでいいの…」




蘭の手首を掴む手が緩む
この世で最も愛する女の口から出る言葉は俺の最も聴きたくない言葉ばかり




「ごめん、景吾…
ありがとう…、こんな私を好きでいてくれて」

「っ…」




どうしてなんだ
どうして手に入らない
むしろそれがあれば他の全てはいらないのに
本気で求めるものはこの手に収まらない




「わかってるの…、侑士のことを好きでいても幸せになんてなれないことくらい
景吾のことを選べば幸せになれることくらい」




泣きそうな顔が俺を見る
そんな顔されたらますますお前を行かせたくなくなるだろうが




「私のこと好きでいてくれる景吾につけ入ればきっとすごく楽なんだと思う
でも、私にはできない…できないんだよ…
自分の気持ちに嘘つくことも、景吾を利用することも…」




お前になら利用されてもいい
惚れた弱みにつけ込まれても構わない
そのくらい、俺にはお前という存在があるだけでいいのに、それでもお前はあいつを選ぶのか




「私は、悪い女には…なれないよ」




泣きそうな顔してるくせに
無理に笑顔を作ってみせる蘭に心が痛んだ
こいつに無理させてるのは、俺なんだと

惚れた女の背中くらい押せないでどうする
例えその先が切り立った崖だとしても、押せと言われたら俺はお前の背中を押してやるべきだろう
それが、俺がお前に惚れたことの証にならなくても




「ごめん、景吾…」

「あぁ」




蘭の手首を掴んでいた手を離す
急激に体温を失った手が、まるで温かさを求める冷たい俺の心のようだった




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