中学生
□プロローグ
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血の気が引いていくのを
リアルに感じたのは後にも先にもあの時だけだ
と、いうか二度とあんな思いはしたくない
『幸村が、倒れた』
事実をありのままに
最小限の言葉で伝えられた
電話の向こうから聞こえる機械を通した声がだんだん遠のいていくような気がした
頭の先から血液が重力に従って降りていく
手から力が抜けて持っていた電話を落としそうになるが両手でしっかり抑えて電話の向こうからもたらされる情報に耳を傾ける
どこで、だれが、なにをした、
必要な情報をなんとか頭に叩き込んで彼に会うために病院へと向かった
その病院は、よく知ってるけどあまり行ったことはない
自分自身があまり病院という場所に縁のある体ではないということもあり、この場所にはあまり来たことがない
一体、ここまでどうやってたどり着いたか覚えていないが過程なんてどうでもいい
「幸村っ…!」
「九条、どうして…」
教えられた病室に着くとベッドの上にいて上体を起こしている幸村と
私に電話をくれた真田、柳がいた
幸村は病院にいる人らしい服装に身を包んでいるけど私の目には元気そうに見えて飛び出しそうなくらいにせわしなかった心臓が落ち着きを取り戻す
「俺が連絡した」
真田が言う
私は真田と柳にならってベッドの近くの椅子に座り幸村の手をとった
「真田から、幸村が倒れたってきいて…私、すごく心配したんだよ??
…でも、よかった 元気そうで」
涙声になるのを堪えて幸村に言うと
咲き誇る花のような笑顔が向けられる
とても美しいのに、どこか儚い、そんな笑顔が
「ちょっとフラっとしただけさ
大袈裟だなぁ、でも 心配かけてごめん
俺は大丈夫だから そんな泣きそうな顔しないで?ね?」
「泣きそうじゃないもん…
大丈夫なんだよね?何ともないんだよね?」
「もちろんさ」
いつも通りの笑顔に心が晴れる
幸村が大丈夫って言うなら、大丈夫だよね?
私は彼の言葉を信じて疑わなかった
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