SHERLOCK
□Don't know why
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珍しくジョンから出掛けようと誘われて、ここまでついてきたはいいものの、僕を誘ったのは間違いだったと思う。今すぐにでも踵を返して家に帰りたい。
「服なんて着られるもので十分だ」
「いつも似たようなものばかりじゃないか」
横にいるジョンがあり得ない、とでも言いたいような顔をしているが、なぜそう思われなければならないのか。理解に苦しむ。
「かっこつける必要がない」
「なんだよ、僕がかっこつけているとでも?」
「少なくとも、メアリーと出会ってからは身なりに気を使っている」
この間、家で熱心にパソコンと向き合っていた彼の後ろを通ったが、画面には様々な服やそれに関係するものが表示されていた。どこかの通販サイトでも見ていたんだろう。言葉につまっているところからして、やはり図星のようだ。
「……とにかく、せっかくだから中に入ろう」
「嫌だ」
「付き合い悪いぞ」
「どうせ友達はいない」
「OK。君のお気に入りの店でおごる」
彼の提案に仕方なく僕が折れてやると、ジョンに続いて店の中に入った。
ショーウィンドウから覗いていた時には分からなかったが、意外と遊び心のある店内で、取り扱っている品物も悪くはない。店内に流れているBGMも騒がしくなく洒落ている。
気に入るか、そうでないかで言えば前者の方だ。
いろいろと見て回るジョンと同じように商品を手に取ってみるが、やはりピンと来ない。
「ジョン、さっさと選んでくれ。退屈しそうだ」
「まだ入って五分も経ってないぞ」
「面白くない。……そうだ、推理ゲームをしよう」
「シャーロック、僕は買い物がしたいんだ」
呆れたような表情でそう言い放つととジョンは店の奥へと歩いていった。もしこのまま帰れば後からしばらく文句を言うだろう。本当に仕方がない。
「あの、良かったら何かお手伝いしましょうか?」
ジョンの後を追おうと足を踏み出した時、後ろから声を掛けられた。さっきの僕たちのやり取りを見て接客に来たんだろう。踏み出した足を軸にしてまわると、小柄な少女が人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。
「いや、なにも。結構だよ」
「そうですか。ちなみに今日はプレゼント選びですか? それともご自分用の?」
「どちらでもないんだ。その、彼の付き添いでね」
視線をジョンの方に投げながら、彼女の質問に答えてやった。僕の仕草で連れが分かったようで、軽くうなずいている。いつもならさっさと行ってしまうところなんだが、何故だか彼女から離れようと思えなかった。
「やっぱり気が変わった。何か……そうだな、君に任せる」
「え?」
「気に入ったら買って帰る」
「ええっと……そうですね。このジャケットなんかどうでしょうか」
少し困惑した様子の彼女だったが、どうやら気を取り直して接客にあたるようだ。顎に手を当て、少し考える素振りを見せた後、近くのラックから落ち着いた色味のチェックのジャケットを選んで持ってくる。
最初は万人受けする、無難な無地のシャツかなんかの定番なものを選んでくると予想していたから少し驚いた。
「なかなか悪くない」
「ありがとうございます。ご試着なされますか?」
「そうだな、他にも何か持ってきてくれないか。ここで待ってるから」
「かしこまりました。少々お待ちください」