アーネンエルベin金女主
□もう一人の英雄王
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あるテーブルだけは異質な空間に包まれていた。右にギルと白野、左に英雄王。英雄王はセイバーを隣に誘ったが断られて一人で座ることになった。英雄王はしかめた顔をしている。それに対してギルはまさに愉悦といった笑みである。
白野は二人のギルガメッシュと一緒にいるので縮こまってしまっている。士郎達は助けたいが助けられず離れた場所から頭を下げて謝っている。
「どうした我よ。そのようなしかめっ面をしておる。いつもの尊大な態度はどうした?」
「貴様、我か?」
「いかにも我よ。何を今さら」
もう会話だけなのに、居心地が悪い。白野は苦しそうだ。
「しかし、なんとも情けない。あそこまで嫌われるとはな。貴様はあのセイバーに何をしたのだ?いや、言わなくてもわかるがな」
「さすがは我よ。セイバーに気づいたか。セイバーこそ我が后。我が愉悦の肴にふさわしい乙女よ」
「そこは同意よ」
「ギルガメッシュは誰だろうとお断りです」
セイバーの絶対の拒絶にギルはやれやれと、英雄王は勘違いしてるのか高笑いしている。どちらがセイバーを理解してるのかもうわかる。
「ねえギル。この、ギルは受肉してる。どうして?」
「大方聖杯であろう。であればこうなってるのも納得だ」
「受肉…」
「気を付けろよ白野。受肉したということは我欲がある。つまり我を輪にかけて傲慢だぞ」
(え?ただでさえこれなのにさらに?嘘でしょ?恐るべしギルガメッシュ)
白野は戦慄する。今でも傲慢なのにそれ以上なのだと。もう恐れるしかない。対して英雄王はギルと白野の関係を見て眉をひそめる。
「おい我よ。まさか、そのような雑種がマスターなどと言わんよな?」
「そのまさかよ。今さら気付くなどやはり慢心のしすぎか」
「バカな。このような貧相な雑種がなどと気でも狂ったか!?」
「たわけめ。確かに見た目は貧相よ。しかし、こやつこそ我が求める人間の極みよ。それに気づかぬなど裁定者としてどうだ?」
「貧相は余計」
ギルが白野をマスターとして認めている。それが英雄王として驚きである。ギルは白野の本質を見抜いているのに英雄王は見抜いていない。それが嘆かわしかった。
「貴様…我を哀れむか!?同じ我を!」
「哀れむさ。ここまで愚かになるなどな。落ちぶれるなどあってはならんことだ。そもそも貴様、そのような贋作に負けたな。わかるぞ。慢心が極まりすぎだ」
空気が、重くなる。空間に亀裂が入り、危険になっていく。英雄王の方はいつでも王の財宝をこの店内で余すことなく使うであろう。対してギルは腕を組んで余裕の表情。周りはたまったものではない。いつでも迎撃、脱出できるようにしている。
「だめ…」
「む?白野」
「だめだよ。ここは店内。暴れたらだめ」
「なんだ白野?我を心配してるのか?問題ない。我欲に溺れ慢心極まった我に負けるなどありえん」
「それでもだめ。というかお店酷くなったら修理費とか払わないといけなくなるからだめ」
「そこかハサンめ。心配する箇所が違うであろう。まあよい。争う気もない。我よ。ここは飲食店だ。茶を飲みに来たのならおとなしくするのだな」
白野がギルを止める。いや、正確にはここで暴れられるのを止めただけである。さすがにそっちに、店の被害を心配しているだけである。
「ふはははは!どうだ我よ!我のマスターは!素晴らしい!だろ?とても愉悦な対象であろう?」
「結局私は愉悦対象。麻婆を食わせたほうがいいかな?」
「おいおい白野。誉めてやってるのだぞ?だからその麻婆を仕舞え」
「ギル…」
「ふん。許せ」
「よし」
「貴様ら…ふざけるのも、いい加減にしろよ!」
白野とギルの行いはまさに大学の男女がキャンパスライフを堪能してるような光景に写る。それに英雄王に火に油をさらに注ぐ。英雄王はギルの姿に怒りがこみ上がってきて今にも乖離剣を抜きそうになるほどだ。
さすがに士郎達も止めようと行動をとろうとする。白野もギルも気づいて止めようとする。