念ノート

□プロローグ 始まり
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2000某年のとある日、病院の病室にて一人の老人がこの世を去ろうとしていた。もうかなりの老年でいつ死んでもおかしくない。家族はいない。生涯独身で唯一の家族も弟のみだが、その弟もすでにこの世を去っている。
悲しむ人間はいない。老人はそれでもよかった。自分の人生はそんなものだと受け入れていた。ただ、この老人の頭によぎったことは手に持ってあるノート。いや、日記だと思う。
子供の頃から書いていたノート。今では妄想などの虚言まで書かれている日記。老人は思った。もしも、このノートに書かれた事が現実になればと。だが、それがバカバカしいとすぐに振り払う。
そんな都合よくおきるなどあり得ない。ただ、そう願ってしまうのは人間の、男のさがなのだろう。老人は誰に看取れることもなく、ゆっくりとまぶたを閉じて、息を引き取った。
ノートをしっかり握りしめながら。この瞬間、一人の人間の念が奇跡を起こした。それは、喜劇でも悲劇でもなく。欲望による劇である。
 

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