砂漠の花

□砂の調
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 我愛羅は森の中を歩いている。

 水無月との待ち合わせ場所に行くために。



 水無月の誘拐事件から、既に数ヶ月が経っていた。

 あの後、水無月の治療により、我愛羅の怪我は予定よりもずっと早くに治り、退院した。

 その時、彼女が砂隠れで優秀な医療忍者であることを知ったテマリたちはなぜ言わなかった等と水無月を質問責めにしたが、聞かれなかったからと言われ、押し黙ることしかできなかったのだ。

 


 我愛羅は中忍試験の時から、大分変わった。

 風影になることを目指し、正規部隊に入った。
 風影になる夢を、水無月は誰よりも応援してくれる。


 「我愛羅さまなら、素敵な風影様になられますよ」







 そう言ってくれた彼女は、いつも自分を支えてくれている。

 こうやって、何かの時間を割いてまで会いたいと思うのは、愛しいが故だろう。
 
 目的の場所に近づくに連れ、小さな歌声が聞こえてくる。

 自分は歌にあまり興味はないが、彼女が歌う歌はかなり好きだった。

 あの小さな口が、美しく綺麗な旋律を奏でる。

 それを聞くと、何故か落ち着くのだ。


 泉に近づいていくと、はっきりと歌声が聞こえてきた。

 初めのうちは恥ずかしがってあまり歌おうとしなかったが、最近では少し割りきっているのか、歌うようになった。

 彼女が歌を歌うのが好きだと言うことを知らなくて、初めて聞いたときは胸が高鳴った気がした。

 それは今でも変わらない。
 
 歌を邪魔しないように水無月の隣に腰を下ろした。

 彼女は目をつむっているので自分がいることに全く気づいていない。

 忍としてそれはどうかと思うが、それほど自分に気を許してくれているのだと考えると胸は暖かくなる。

 美しい旋律が止み、隣を見ると、彼女が自分を見て頬を染めていた。

 

 「…いらっしゃるなら、声をかけてくださればいいのに……」


 「声をかけたらお前は歌わないだろう……」


 「もう……言ってくだされば歌いますよ?」


 
 
 そう呟くと、再び目を閉じ、綺麗な旋律を紡いだ。

 これが自分じゃない誰かだったならば、彼女は一体どうしてるのだろう。

 こんなにも無防備な彼女は誰かに襲われたりしないだろうか。

 彼女も忍であるのはわかっている。

 その気になれば抵抗ぐらいはできるだろう。

 たが、あの時のようになってしまったら?


 考えるだけで恐ろしいし、考えたくもない。



 チラリと隣に座っている水無月に目を向ける。


 我愛羅は自分が水無月に対して抱く気持ちに気づいている。

 だが、もし自分が思いを告げたら、彼女はどうする?

 受け止めてくれるのだろうか、断られるのだろうか。

 彼女は優しいから、きっと困ったような顔をして笑うのだろうか。

 もし、断られてしまったならば、今の心地よい関係にもヒビが入るだろう。

 今の関係を壊したくない。


 その思いが我愛羅を踏みとどまらせていた。

 
  
 
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