ソニック小説

□はじめまして
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生憎と、今日は雨であった。
バシャバシャと水が跳ねる。ナックルズはひたすら走っていた。
傘は持っていない。つまり、ビショビショになりながらナックルズは走っているのである。
――…あぁ、メロスよ。走るがいい。
途中、何度もこけそうになった。しかし、足を止めるなど愚かなことはしない。
息がゼェゼェと整いをなくしている。
口が乾いて、雨に紛れて唾液が溢れているような錯覚までしてきた。
――…大事な者の為に。さぁ、走るがいい。
記憶に無理矢理記録させたルートを駆けていく。
あともう少し。きっと、もう少しで。
………ほら、あった。
ナックルズは、びしょ濡れなのも気にしないで、そこ。病院の中へと駆け込んだ。

「ソ、ニッ、…クの…ぉ、夫…です…子供…、産まれるって、聞いて…!」
ゲホゲホと咳き込みながら、受付に告げる。
すると、受付は…にっこりと微笑んで、「ご案内いたします」と……。



「俺より疲れてるじゃないか、ナッコーズ」
病室に行ってみると、大任を果たしたばかりの彼女から笑われた。
ナックルズは安心したように口許だけの笑みを浮かべる。
正直、足も疲労からかガクガクだ。それでも。
「…子、子供、…は……」
声も震えているが、ソニックは優しく笑ってくれた。
「そこにいるよ。…ほら、その。えっと…ああ、それ。寝てるから静かにな」
「……っ、ぁ」
動きたがらない足を動かして無理矢理近付いたそこには。
すやすやと眠る、我が子が。
「…ぁ、ぅ…ぅあ、」
見た途端、嗚咽が漏れそうになる。
あまりにも、尊くて、眩しい。
ソニックは、鈴のように優しく。
「泣いてもいいよ。大丈夫」
と……微笑んだ。
ナックルズの涙腺は、プツンと切られる。
「…ぅああぁぅ、ぁああああぁぁ…!」
「…これから、二人で頑張ろうね。お父さん」
「ぅ、ん…ぅ、ぐぅ…ぅぅううぅ…っ!」
足が崩れて、その場に座り込んでナックルズは泣いた。
決して、弱さの涙じゃない。これは、とても綺麗な決意の涙だ。
「俺も頑張るからさ。今は、情けないお父さんでもいいから、泣いてくれよ」
「ううぅうぁああぁあ…!!あぁあああ…っ!」
決して茶化す訳じゃなく。ただ、静かに。
ソニックはナックルズを眺めていた。

こんなに優しい夫がいて、可愛い子もいて。
妻としても、俺としても。嬉しいなぁ。
子供には、ナックルズに似てほしいかな。
あ、でも、やっぱり俺にも少しは似てくれたら…はは、うん。やっぱり嬉しい。
「…そ"に"っく"ぅ"ぅ"」
「ん?……っ、ぷ、あっははは、なんだ。目が真っ赤じゃないか」
「俺頑張るか"らな"ぁ"ぁ"」
メソメソ泣いてるのにさ。やっぱり、お前は優しいよナックルズ。
それに…情けないはずなのに格好いい。
さすが俺の自慢の夫じゃないか。
「…じゃあ、二人で頑張ろっか」
まあ、元よりそのつもりなんだけど。
…わお。また、泣き出しちゃった。
「…ま、今日は思う存分泣いてもいいんじゃないか?俺も、いっぱい泣いたからさ」
これから忙しくなるだろうなぁ。
でも、…まぁ、ナックルズとこの子と一緒なら、なんて。
やっぱり。

「好きなんだなぁ」
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