ソニック小説

□俺と、そして、彼女と
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何の苦労もなかったわけじゃない。
初めは周りからの反対も大きかったし、二人はいつものようにエッグマンと戦っていたから充分な暇が取れるかも不安で、それでも二人は一緒になりたいと、自分達で決断を下したのだ。
二人は、始めこそぎこちなかった。
目の前に垂れ下がった誰のものかもわからない幸せに、はたして易々と食いついて良いのだろうか。
後で釣られてしまってはどうしようもない。
だからあえて、暫くじっと餌が引き上がるのを待っていた。
決して目を離さない。
釣られないように、食いつかないように、二人はじっとしていた。
…やがて、ナックルズは餌をもぎ取った。
このままじゃ何も始まらないし、終わらない。
餌は取ってしまえば引き上がることもないのだ。
「ソニック。…その…俺は…お前が好きだ。…えっと…恋愛的な意味で」
そしてその餌は、ソニックへと分けられた。
量等、どうでもよかった。
ただ、自分を選んでくれた。
それだけで多幸感に包まれた彼女の答えは、…


どこか心が落ち着かない。
そわそわする。
早く帰ってやりたい。
あいつは大丈夫だろうか。
そんな事を考えて、ナックルズは息を吐く。
自分は所謂「大事な役目」を持っている。
それを自分の家庭のために疎かにするのは気が引けた。
それはソニックも同じだったようで、
「俺とこの子は家で安静にしてるさ」
という約束を交わして、ナックルズを持ち場へと向かわせた。
実際二人が一緒に暮らしている家は、「持ち場」からそう遠くはない場所にあった。
もし何かあったらナックルズでも走って5分ほどの所。
「…でもよぉ……」
心は、落ち着かなかった。

二人には子が居る。
今その愛する我が子はソニックの腹の中で火を揺らしているが、初めての経験になる妊娠に二人とも少し緊張していた。
どちらの方が、と言えば、即答でナックルズだった。
時間を見つけてはソニックや、我が子と会話を試みる。
それは、新しい弟が出来る兄のようだった。
「お前は…辛いのが好きになるかな…あ、いやでも、俺みたいに何でも基本食う子になれよな!」
「HEY!それじゃあ料理がしにくいじゃないか」
「ソニックの料理は上手いから心配要らないだろ。なー?」
ナックルズは口元を緩ませて我が子に語りかけ、愛しげにソニックの腹を撫でた。
トクン…と脈打つ音が掌を通して伝わってくる。
それだけで幸せだった。
その時、
「…ッ??!?!?」
「…ぁっ…と…動いた……」
ピリッと走った痛みを堪えてソニックはナックルズの方に目をやった。
動いた。
今、確かに、ぽこんと…我が子は、動いた。
「…ナッコーズ……?」
ソニックは、固まったまま動かないナックルズを心配そうに見つめた。
そして、
「ナ、ナッコーズ?どうし…うわっ、HEY!何で泣いてるんだよ!」
ナックルズの瞳から、ぼろぼろと何かが溢れた。
ソニックが血相変えて問いかけてくるが、当の本人にも、よくわかっていなかった。
「…ぇ、あ、…ん?」
「ん?じゃないだろ!」
肩を撫でられる。
そこで、漸く自分が泣いている事実に気付いた。
「…お前……今、動いたよな」
震えた声でソニックと視線を合わせる。
ソニックは、ナックルズの涙のわけを悟り、静かに頷いた。
「…もし、元気に生まれてきたら、手合わせしてみようぜ」
震える手で、声で、我が子に喋りかける。
「女の子だったら、ソニックと出掛けてみてもいいかもしれない…あ、俺を置いていくなよ…?」
あぁ、たまらない。
「お前は、生まれたらびっくりするかもしれないぞ。お前の母さんはすっごく美人なんだ」
幸せすぎて、死んじまうかもしれない。
「俺は…俺と、ソニックは……お前を、待ってるし…ずっと…今でも…大好きだ…!」
…我慢しろなんて非道なこと、ソニックは言わなかった。
腹を撫でながら嗚咽を漏らすナックルズを眺めて、「俺も、待ってるよ」と呟いて、同じく嗚咽を漏らした。



数週間後、元気な男の子が誕生することは、また別の話。
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