戦う!セバスチャン

□バレンタイン
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■ユゼB



たかがチョコレート。
されどチョコレート。
今日と言う日にチョコレートを渡すだけで、いつもと変わらないはずの日常がこんなにも特別になる。


昔はお菓子会社のイベントに踊らされて数日も前から愛情を込めたチョコを用意する女も、当日一日中ドキドキしながらそれを待つ男も、何でそんなに力が入るんだろうと疑問にすら思っていた。
思っていた、けどそんなのは当事者にならないと分からないものなんだなと今更知る。
浮かれる奴を見てちょっとバカにしてごめん。
なんて、それこそ今更心の中で詫びる。

ああ、心臓が早鐘みたいにうるさく鳴ってる。
オレは廊下の真ん中で一度立ち止まり、手に持つラッピング済みのチョコを見つめてから深呼吸をした。
落ち着こうとしたまさにその時。
「やあB君、おはよう。」
「ユーゼフ様っ…おはようございます。」
自分から会いに行こうとしていたけど、心の準備も出来ないうちで。
焦ってチョコレートを背に隠した。

そして改めてユーゼフ様を見て、一点に釘付けになる。
ユーゼフ様の手に、小さな箱が一つ。
ラッピング具合から見てチョコレートに間違いないだろう。
オレよりも先に誰が渡したんだ。
…誰から受け取った?
ずきりと胸が痛む。

「今日はバレンタインだね。」
オレのぐるぐるした心情など知らないように、ユーゼフ様はにこやかに言った。
「そ、そうですね…。ユーゼフ様はそれだけなんですか?」
口に出してから言わなきゃ良かったと後悔した。
モテる人だ、今手にしている一個だけなんて事あるはずない。
「ああ、うん。本命の子はくれないだろうと思ったから。」

…聞きたくない。
ゆっくり近付いてくるユーゼフ様の顔がまともに見れなくてオレは俯く。
すぐ傍で立ち止まる気配がして、次の瞬間目の前に箱が差し出される。
「はい。」
「え…?」
ユーゼフ様の行動が分からず顔をあげると穏やかな笑顔を浮かべる瞳と視線がぶつかる。
「本命の子からはもらえないと思ったから、こっちからあげようかなって。」
…本命の…子って。
「たまには愛を形で伝えるのも悪くないねえ。」
「……オレの事?」
「嫌だなあ。いつもあんなに好きだって言ってるのに伝わってないのかい?」
だってそれは、あまりにも毎日恥ずかしげもなく言ってくるからからかわれてるだけだと思ってた。
でも違ったって事か?
やっと理解出来て、顔が熱くなる。

「まあ、伝わらないなら伝わるまで何度でも言うだけさ。」
ユーゼフ様は笑みを深めてオレの耳元へ唇を寄せてささやく。
「大好きだよ、B君。」


END



他の話で、同じようなラストを書いた気がしてきた…。
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