[2]

□笑顔
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「君は気に入ったから助けてあげよう。」
死なない男と言われた目の前の人物は、それは綺麗な笑顔で言った。
周りには今回一緒に行動した同業者たちが倒れている。
「どうして…。」
私を殺すなんてきっと驚くほど簡単に違いないのに。
「こういう仕事をする人間は大抵お金がほしいか、人を殺すのが好きか、死にたがってるんだと思ってたんだけど。君は違うようだから。」
初めて会った私の、一体何を知っているというのか。
ぞっとするくらい冷たく綺麗な笑みは恐ろしいほどだったけれど、それ以上に腹がたった。
「…ここで殺さなかったこと、後悔させてやる。」
「待っているよ。」
去り際に吐いた台詞に、楽しそうに彼は表情を和らげた。

それから何度か彼…ユーゼフの命を狙いに行ったけれど、どんな方法を用いてもその命を取ることは出来ないまま。
「やあクラリス、久しぶりだったねえ。」
それどころか、殺そうとやってきた私に笑いかけ気軽に声をかけてきたりする。
得体が知れない、おかしな男だ。
そして結局今回もまた殺すことが出来なかった。
仕事をしくじれば死ぬのは自分の方。
それなら私はもう何回死んでいるだろう。
さすがに今日こそ殺されるかもしれないと覚悟をした。

「ところで、君は料理出来るのかい。」
けれどいきなり全く関係ない話を振られて眉をしかめる。
「向かいの屋敷でコックが夜逃げしてね。募集しているんだよ。」
「は…?」
全然話が見えない。
ユーゼフは楽しそうに言葉を続けた。
「スイーパーは廃業。今日から君はコックだ。」
そしてひょいと銃を取り上げる。
「返せ!」
「嫌だね。」
「何も知らないくせに、勝手なことばかり…!」
そうだ、初めて会ったときからこの男は。
何でも見透かしたような目をして、知ったようなふりをして。

「知ってるよ。」
にこりとユーゼフは笑った。
「ずいぶんとすねに傷を抱えて、人生送ってるよね。」
「なっ…!」
見透かしたような目をして。
いや、事実見透かされていると、理由は分からないけれど直感した。
本当、得体がしれない男。
…なぜか笑みが浮かんだ。

「クラリスがいつ来るか待っているのも楽しかったけど、それよりいつでも会えるくらい近くにいた方が良いと思ってね。」
…私がスイーパーなんてやっているのは、誰かの居場所を消したかったから。
そこに自分が入りたかったから。
自分がいるべき場所を、ずっと探していたんだ。

「…分かった。コックになれば良いんでしょ。」
今の仕事をしていても見つけられなかったものを、そうすることで見つけられる気がする。
ユーゼフに握られて生きのびた命だし、癪ではあるけど言うことを聞いてやろう。
…考えてみれば、こんなに何度も会って話をした人間は初めてかもしれないとぼんやり思う。

「これから、楽しくなるね。」
それは前見たものとは違う、純粋に綺麗な笑顔だった。


END

ユゼクラはちょっと気に入ってるんですけど…!
何か会話が殺伐としてそうですよね。
ヤンとエルは一緒にデーデマン家に行ったというので、じゃあクラリスはどうやってデーデマン家で働くことになったのかなと思いまして…。

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