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□口実
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休憩室のドアを開けたら、いつもより冷たい空気が流れてきた。
「やあ、B君。お邪魔してるよ。」
「ユーゼフ様。こんにちは。」
休憩室にはユーゼフ様が一人でいた。
中に入るとやっぱり寒くてぶるりと体が震える。
…ユーゼフ様は普段通りにこにこ笑っているけど、寒くはないんだろうか。
とりあえず二人分のコーヒーをカップに注ぎ、最大になっているクーラーの電源を切った。
「どうぞ。」
ユーゼフ様はありがとうと微笑み、そしてすぐにまたクーラーをつけてしまった。

「えと…寒くないんですか?」
「君は寒いだろう?」
「ええ、だからクーラー止めたいんですけど。」
ユーゼフ様は相変わらず笑っているけど、オレはその言動の意味を図れず首を傾げる。
そうしている間に隣に来たユーゼフ様は、ぎゅっとオレを抱き寄せた。
「ユー…ゼフ様?」
「君に近づく口実が欲しかっただけ。」
ふふ、と耳元で幸せそうな声がする。
ユーゼフ様はずっとこの寒さの中にいたと思えないくらい暖かくて、自分の冷えた体がじわりと暖まっていくのを感じた。

抱きしめあうのは相手の体温を感じて、分け合っている気がするから好きだし何だか安心する。
「B君?」
オレは腕を伸ばしてもう一度クーラーを止めた。
ユーゼフ様が不思議そうに顔をのぞき込んでくる。
「…別に口実なんていらないです、から。」
暖めてもらうのも良いけど、ちゃんと自分の体温を伝えたいしユーゼフ様の暖かさを感じたかった。
…言ってから恥ずかしくなって、ユーゼフ様の胸に顔をうずめる。
ああ一瞬で顔といわず体中が熱くなったじゃないか。
ふと頭上で笑う気配がした。

「本当に君は僕を喜ばせるのがうまいね。」
すぐ近くで聞こえる心臓の音が僅かに早くなっている。
「…ユーゼフ様こそ。」
オレの体温は上がっていくばかりだ。


END
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