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□不和が広がる
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玲子の口を介してオドが会話して、それからの事。
ちょっとした変化が起きていた。
オドと会話をしてあれ以来、玲子の中からオドの存在が消えているように感じていた。
理由は分からない。
あの男、オドはいつものように傍観者に戻ったのかもしれない。
もしくは、世界を見守っているのかもしれない。
ただ、何時もとは何かが違う気がした。
余韻を残さず消えた音のように、オドは消えた。
玲子の中は無音になった感じになったのだ。
『いつもこんな感じだったっけ…』
久しくあの男とは話していなかったため、彼が消えた後どんな感覚であったか忘れてしまっていた。
以前までのあの男と話した後は、いつも余韻が残っていたように感じていた。
声がこだまするという感じではなく、存在感が自分の中でうっすらだが残っているような、そんな不思議な感じ。
それは気のせいだったのか何なのか、分からない。
彼の声を聞く期間が空きすぎて感覚を忘れてしまったのかもしれない。ただ、今回はそういった感覚がなく、違和感を覚えていた。
今回感じとったのは
なにもない、無。
存在が消えてしまったのか、
それともまた世界を見ているだけなのか
『(消えた、訳無いよね…?)』
ただ単に、感覚が鈍って気配を追えなくなっているだけの事。
しばらくの間会っていなかったのだから、今回だって同じだろう。
でもやっぱり、気になる。
あの男の存在を認知してしまったから、どういう人物か知ってしまったから、居ないと不安になってしまう。
今までとは違う不安感。
何もない世界にポイッと投げ捨てられたような…。
(…あ、いや、いつも通りかも)
今漸く考えがまとまり、ため息が出た。
そうだ。あの男はそういう奴だった。
なぜならやり方があの時と似ているから。あの時とは、自分がこの世界に連れて来られた時のこと。
その時と同じだ。
この世界に連れていくと半ば強制的で、連れてきた後は自分で何とかしろと放置された。
声は聞けるようにしていたけど、あまり話すことはなかった。向こうの気まぐれで声をかけられたり、連れていかれたりした。
今回も同じで、声は聞こえるが存在は追えなくなっている。
だから、今の状態は普通なんだ。
…多分。
そう思うことにした。
『(それにしてもオド、か。クロス元帥はなんで気付いたんだろう)』
肩に大人しく乗っかっているクロスから譲り受けた紅いゴーレム。それは、クロスが玲子の事をすべて理解した上で与えたもの。
『お前を作った人は何を知っているんだろうね…』
自分自身、クロスやオドから言われたことを理解しきれていないのに。クロスは玲子を守るためだといって紅いゴーレムを手渡した。このゴーレムを渡された意味を考えながら、それを指でなぞる。
そして玲子は廊下の角を曲がった。
考え事をしながら角を曲がったのが良くなかったのだろう。
死角となっていた所から人が飛び出して来ているのにも気付かなかった。
そのせいで思い切りぶつかってしまった。
「…っ」
『わ…っ』
反動でよろよろしながらも体制を立て直そうと試みるが、思いの外油断していたのか、それが出来ず尻餅をつきそうになった。
しかし、それは未遂で終わった。
なぜなら、ぶつかった相手が玲子の腕を掴み、身体を支えていたからだった。
ふと、前にも似たようなことがあったことを思い出し、学習しないなと苦笑いが浮かびそうになった。
『…あ、ありがとうございま…』
ぶつかっておいて体を支えてもらうなんて、申し訳ない。すぐさま体制を整え相手に礼を、と顔をあげる。
相手の顔を見た瞬間、身体がギシッと強張ってしまった。
『か、神田…』
「……」
玲子の体を支えたのは神田だった。
仏頂面は相変わらずだが、その仏頂面を玲子はまともに見れないでいた。
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