□不和が広がる
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ダークマターはまだ玲子の体内に残っていて、いつそれが、どんなきっかけで働き出すかは分からない。

暴走は今のところ有り得ないと言ってはいるが、それも定かではなかった。

アレンにはリンクという人物が見張り役として付いてしまった。もしかしたら玲子にも付いているのかと思ったが、彼女の現状を見る限りそうでも無いらしい。


「ユウが避ける理由は分からなくもないけど、玲子の不安要素も…」

「玲子さんは悪くありませんよ!」


ラビが言いかけた言葉を遮るように、アレンは大きく声を張り上げた。


「…すみません。ムキになりました」

「いやいって。しっかしお前もあれだなー。玲子に懐き過ぎ」


ラビは頭の後ろに腕を組み、ニシシと歯を見せて笑いかけた。しかし、その笑顔はすぐに消え、まじめな顔つきへと変わっていった。
不安を感じたアレンは、その不安を表情に浮かべラビの言葉を待った。


「…なんですか」

「お前はあいつが仮死状態とはいえ、そんな状況に追い込んじまったって言う負い目はあったんだろうけどさ」

「…そりゃ、僕は彼女を傷付けました。これは後悔しても消えるものじゃないです」

「それは分かるって。だけど今はそういう問題じゃねえだろ?」

「何がです?」


分からないと言う風に首をかしげるアレンに、ラビは顔を引き攣らせて耳打ちした。


「今は玲子とユウの仲をもとに戻してやらねーと」

「なんでですか?!」


それこそアレンにとっては倦厭したいものだった。

あれだけ手ぇ出すなとか好き勝手に言っておきながら、今さら避け始め、自分勝手に振るまっているのも関わらず、その仲を取り持たなければならないのか。

アレンは後悔したくないから、彼女とはこれからも関わっていきたい。そう願っているというのに、ラビはその願いを打ち砕くようなことをいうのだから、アレンは眉間にしわを寄せていた。

その様子を感じ取ったラビは苦笑しながら、「まぁ落ち着け」とアレンの肩を叩く。


「いやー、実はな、『これは絶好のチャンスだ』って玲子に目を付けてた教団内の奴らが動き出しそうな感じになってきてんだよ」


ラビにとっての由々しき問題はここにあったのだ。いくら自分の目を光らせたところで、ラビの場合、あのブックマンが邪魔に入ってくる。
ブックマンの心得を忘れたわけではないだろうな等と、延々と続く説教が待ち構えている。

玲子はリナリーに負けず劣らずの人気ぶりだ。それは最早エクソシストや科学班だけに留まらない。

つまり、神田という虫除けを使っていない今、玲子は完全に守り切ることはできないということだ。そのためには、周囲に希望を与え過ぎない程度に神田と玲子の仲が戻ってもらいたい。

決して神田と玲子がくっついてほしいという訳ではない。

アレンはそんなことなど気にもしていなかったのだろう。今知った事実に驚愕の表情を思いきり浮かべ、焦りを剥き出しにしていた。


「そんなの聞いた事無いですよ!」

「そりゃー、今までユウがことごとく牽制しまくって希望さえ持たせないようにしてたからなー。ユウは存在だけで周りを黙らせるって言うかさ」

「それ笑い事じゃないですよ!!なんで神田だけに任せてるですか!」

「いや、そのな、落ち着けって。…ユウが離れたら、今度はアレンが玲子擁護か」

「わ、悪いんですか!そんな事より今はっ!」


『何してるの、二人とも?』


「「ぎゃああああっ!!?」」


予想外の声の主に、こればかりは二人とも同じ気持ちだったのだろう。周りを気にせず作戦を考えようとしていたところに、当の本人が来てしまったのだから。驚きを隠せず、心臓はバクバクしている。


「ど、どうしてここに…」


ラビは思わずそう言葉にしてしまっていた。玲子は呆れた容姿でため息をつき、腰に手を当てながら答えた。


『あのね、あたしが気付いてないとでも思った?』


背後には人一倍敏感な玲子。

通路の角に隠れていたとはいえ、二人のやり取りには隙があり過ぎた。
はじめは好きにさせておこうかと思ったが玲子はその気配の主を感じ取ってしまい、見かねて声をかけたのだという。




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