□不和が広がる
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神田をこんな近くで見るのは久々だった。

この間まではよく顔を合わせていたのに、その回数は教団の引越し後めっきり少なくなってしまった。

教団が引越ししたため近くにあった森もなくなり、日課となっていた朝稽古を共にしなくなったというのも原因の一つだろう。

しかし、それは原因の一つに過ぎなかった。


『ひ…久しぶり』

「ああ」


そう一言二言言葉を交わすと、神田の方から背を向け去っていく。これは初めての事ではなかった。

ここ最近は、近付く事はおろか、目を合わせれば反らされ、遠目に神田を見付ければそれに神田も気付き、避けていく。

あからさまに避けられていることが見て分かっていた。

そして、神田がなぜ玲子を避けているのか、玲子自身も理解しているつもりだった。
だからムキになって神田を追い回したり、いつものようにブチ切れたりはしなかった。



『…ごめん…』


遠ざかる神田の背中を見つめているうちに、気付けば小さく玲子は謝っていた。


…ごめん。
…ごめんなさい。


神田の信頼を、あたしは裏切ってしまった。

だから、神田にあんな態度を取られても何も言えない。言える立場じゃない。

アクマ化した姿なんて、知られたくなかった。皆は勿論、神田になんかもっと知られたくなかった。

沢山心配してもらった。
沢山支えてくれた。
沢山、守ってもらった。

それなのに、自分は、その心を踏みにじった。

踏みにじった。
嘲笑ったんだ。
侮辱したんだ。

大切な仲間を。

思いを。



『…ごめん…っ』





*****






…まただ。

また俺は、あいつを避けた。

避ける必要は無い。
あいつは何も悪くない。
あいつも被害者だ。
頭では分かってる。

分かってる。

だが、行動がそれを反する。


「…くそっ」


苛々する。
怒りに身を任せてガンッと、壁を思い切り殴れば、壁の破片がパラパラと舞い、床へと零れた。


「何してるの、神田」


神田のすぐ後ろから、女と思われる声がし、振り返ってその姿を見た。
苛々する神田に恐れず声をかけたのはリナリーだった。


「…お前か」


イライラしていたにも関わらず、声をかけてきたのがリナリーだと分かると、何か用かと言わんばかりにリナリーの顔を見た。

リナリーはリナリーで、神田がイライラしている事を分かっていて声をかけていた。

なぜなら、先程の二人のやり取りを見ていたからだった。


「…神田」

「なんだよ」

「最近二人とも変よ。このままでいいの?」


リナリーはここにきて痺れを切れらしたのか、野暮な事だと知りながら二人の事に口を出した。


「ねぇ神田」

「あ?」

「…どうして玲子を避けるのよ」


玲子を避けるなど、そんな行動は以前の神田ではなかった。
神田の様子がおかしいのは分かっていた。しかし最近はその行動が目に余る。

だからといって神田を責めても意味がない。意味が無いことをしても状況は良くならない。むしろ悪い方向に向かってしまうからだ。

神田は、心の整理が着いていない。

だからその原因となる玲子を見ると気まずくなり、反射的に避けてしまうのだろう。


「余計なお世話だとは思うけど…早く仲直りした方がいいよ?」

「…本当に余計なお世話だな」

「うん、ごめん。でも玲子傷付いてるよ。だから…」

「…そんなもん、あいつの顔見ればわかる」


わかってる。
俺が避けてることであいつが傷付いている事くらい。

そんな様子の神田の表情を見て、リナリーはつい言葉を発する。




「…本当、神田は玲子が大切なんだね…」


今の神田の顔、さっきの玲子と同じ顔してるの、気づいてないだろうね。


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