story

□虚ろ眼
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この階段を上れば、玲子の所に辿り着ける。
この階段を上れば、出口にも繋がる。
上を目指して進む皆の気持ちは一つだった。


さらわれた玲子を救うんだ。

それから、僕は、謝らなきゃいけない。
僕は彼女にまだ謝っていない。謝らなきゃいけない。許されない事をして、僕はずっと逃げてきた。アジア支部にいたときからずっと、僕は彼女から逃げていた。彼女がいると分かってからも、僕は見て見ぬフリをしていた。

謝りたいと、話したいと、ずっと思っていたのに、それをしようとすればいつも恐怖が込み上げてくる。

また、あの人に傷を付けるんじゃないかって、怖くてたまらない。
どうしてあの時の僕は、玲子さんを傷付けなければならなかったのか、今でも分からない。

ただ辛かった。

勝手に動いた腕が悪いんだ。
一切そう思わなかったと言えば嘘になる。ただ自分がしたことに逃げたくて、腕のせいにしてたんだ。何故勝手に動いたのか分からなかった。

勝手に動いた腕が悪い。でも、それを止められなかった自分はもっと悪いんだ。
腕だけのせいじゃない。自分の意志が弱かったからそうなったんだ。

向き合いたい。恐怖と玲子さんと。ちゃんと話しがしたい。


「玲子なら大丈夫さ、きっと…」


ぽつりとラビが呟いた。

あいつは強い。だから、俺達が信じてやらなきゃいけないんだ。
アレンは玲子を傷付けた罪悪感と恐怖で揺れている。

俺だって信じたくなかったさ。アレンが玲子を傷付ける理由は何処にも無いからだ。仲間に牙を剥くようなことは、アレンは絶対しないから。

現に、今苦痛の表情を浮かべている。

ただ、そんなアレンに引っ掛かる所があった。

イノセンスの暴走だ。玲子が、ノアからアレンを助けようとしていたのにもかかわらず、アレンは玲子を襲った。

疼くというなら、何故敵であるノアに向かなかったのだろう。イノセンスはアクマを破壊するもの。それを生み出す伯爵とノア。イノセンスと対となるノアに攻撃が向くのが普通だと思うのは、間違いでは無いはず。

仮にも、玲子はイノセンスに魅入られている。
アレンのアクマに反応する腕に、やられる事はまずないはずなのに。

きっと何かの間違いだ。ノアに操られていたのかもしれないし、そういうことなら、アレンが責められることは一つも無い。


「(あー、くそっ…)」


考えれば考えるだけ、分からなくなっていく。

でも一番確かな事は、俺達が玲子を助けなければならないということ。

それだけだ。




アレンの手を借り階段を上るリナリー。

今の自分が想像したものは最悪なものだった。自分以外の人が倒れていく姿。それをたたずんで見ている自分。


最悪だ。

こんな事考えちゃいけないのに。心まで戦えなくなるのはダメなんだ。闇に付け込まれてしまうから。


玲子だったら、どうするのだろう。闇と戦うのか、闇にのまれるのか。どちらだろう。

玲子は一度闇にのまれている。でも、それは玲子が生み出した闇。そしてその闇と戦った。戦ったから、今も強くいられる。

心が定まっていれば、強くいられる。だから玲子は強いんだ。

私も強くならなくちゃ。

玲子は今一人で敵の中で戦ってるんだから。


「強く、頑張らなきゃ」





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