story
□舞曲廻る
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『…なぜ逃げようとしない?』
あれほどアレンとの戦いを見ていたはずなのに、リナリーはただ玲子の姿を見ているだけ。怯えるそぶりさえしない。
「…逃げる必要、ないからよ」
『何…?』
リナリーは手を伸ばし、触れられぬ玲子の手に、自分の手を重ね合わせた。
逃げる必要なんてどこにもない。だって玲子は今でも優しいままだから。
「アレンくんに本気で打ち込んでないもん」
玲子が本気だというなら、神田よりも速くて鋭い剣の嵐が待っているはずだから。
それに今、剣だけしか使ってない。
たとえ今使うことが出来なかったとしても、玲子が本気で私達を消したいと思うなら、イノセンスを使えば直ぐに済む。そんなそぶりさえしないで、いつまでも優しい、私達の知っている玲子でいて。
「信じてる」
『…何だと?』
「私は玲子のこと、信じてるよ」
だって今まで、私達を責めたことなんか無いじゃない。
本気じゃない。見せかけ。
『…ハッ、都合の良い解釈のしかたね。
…もう今の“あたし”を信じるのは止めなよ。裏切る可能性の高い奴は信用しちゃダメだって…』
…ね?と、寂しそうに微笑む玲子。
先程の、アクマにのまれた人格じゃなくて、親しみのある声。
待って、今“あたし”って…。
「待って玲子!!」
『…リナリー…ごめんね…』
「待って…待ってよ!玲子!!」
痛いことはもうしないからね。
傷が影響して、宙に浮いていられなくなった玲子、一筋の涙を流して落ちていった。
「レロ、玲子拾って。傷つけ無いようにね!」
〈レロロロッ!〉
ドサッと音を立ててレロは空中で玲子をキャッチし、ロードの元へと連れていった。
折角の玲子の白いワンピースが、赤い色で染まってしまった。
「…ごめんねぇ、玲子」
ロードは玲子を抱えるように抱く。
そこに、玲子と入れ代わるように、精神を失ったラビが立った。
「アレン。悲しいお知らせが届いたよぉ」
ラビのココロが今、死んじゃったみたい。
「玲子に近付けばどうなるかわかってたのに、玲子に近付いて、こんな傷だらけにして」
ティキも玲子もきっと痛かったはずだよ。
人間とリナリー、殺されたくなかったら、それを殺さなきゃね、アレン。
アレンは退魔の剣でラビの邪気を払おうと試みるが、魔がついたわけでもないため、物理的な攻撃しか効かないのだ。
アレンは玲子と同様に手を出すことが出来ない。爪の神ノ道化はラビ自信も傷つけてしまうからだ。
必死に正気に戻ってもらえたらと声をかけても、ラビには届かない。
そしてラビは、アレンを炎で包む。空高く持ち上げられたアレン。ふと、妙なことに気付いた。炎に包まれているが、その炎が自分を焼きつける事はなかった。
リナリー達に向けられていた蝋燭も、ラビの火判で溶けていく。
それはラビが、意図的にしたことだった。
正気を失いかけたラビは、自分自身に刃を向けることで正気を保つことをしていた。
「俺の未熟さのせいさ…この落し前はキッチリつけさせてもらう
火加減無しだ!!」
ラビの火判の火力は増し、荒々しさも増す。その炎はロードも飲み込み荒れ狂い蛇のように辺りを飲み込んでいく。
「レロ、ティッキーと玲子の体焼けないようにしててーっ」
二人を気遣いながら、炎に飲み込まれていくロードだが、油断したせいか、夢の中の自分に刃を立てられ、胸を貫かれていた。
死ぬ気かと聞けば、これがベストの選択だったと笑った。
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