story
□舞曲廻る
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ジリ、
「…動かないでって言ってるでしょ。リナリーの首なくなってもいいの?」
カッ、と鋭い槍状に伸びたものがリナリーの首筋にあてられる。
「!?」
「もう知らないよ」
アレンは動くことを諦めざるを得なかった。
「…玲子さん!」
『…動くと、首、跳ねる…』
「何言って…っ!」
ナイフを同化させた玲子の指が細く伸び、リナリーの首を挟むように添えられている。玲子が指と指の感覚を縮めれば、リナリーの首など簡単に落ちてしまう。
「…玲子…」
「玲子さん!」
「無駄だよ。制御するものは無くなったからね」
「ロード…玲子さんに何を!」
アレンはギリッと歯軋りをし、様子がおかしい玲子の事をロードに聞いた。
「何もしてないよ。ストッパーだったものが無くなって、元々の状態になってるだけ」
「…ストッパー?」
玲子の速いアクマ化の進行を、少しだけでも遅らせようとしていたものが無くなってしまったらしい。
今更、それを付けることは出来ず、留めていた本来の力が出てしまっているということだった。
「…ティッキーのノアが今までそれを拒絶してた。だから、玲子は普通でいられた」
「そんな…っ!じゃあ…っ」
「玲子がアレンを止めたのは、そういう理由だったんだと思うよ」
勿論、そんなことは玲子には教えていない。教えても良かったんだけど、ティッキーがそれを止めた。そんなことで必要とされても嬉しくないからだって。馬鹿だね。
ちゃんと言っておけば、玲子は僕らと一緒に居たがるのは目に見えてるのに。ティッキーのバカ。
玲子は、自分でも分からないことに本能が咄嗟に働いたんだろうね。
アクマ化する。
それを肌で感じたんだろうね。
でも、もういい。止めるものはなくなった。
「…アレン、玲子の相手してあげなよ。ラビが壊れるまで隙でしょ?」
そんな事出来るわけがない。アレンはそう言うんだ。でもね、無駄だよ。僕の声を聞いた玲子がじっとしているわけがない。
ロードがいうように、玲子はリナリーの首元に添えていた手を離すと、ゆっくりアレンに向き直る。無表情なままの玲子は、まるで別人のように雰囲気が変わっている。
「…玲子、さん…」
『殺スならそうすればいい。貴方の退魔の能力で浄化すればいイ』
…そうだ。ダークマターを取り込んでアクマ化が進んでいるというなら、そのままダークマターを浄化したらいい。うまくいけば、アクマ化は治まるかもしれない。
アレンが大剣を構えた時、玲子はこちらを見てニヤリと笑っていた。
『…ただし、私も死ぬけどね』
「なっ…?!」
『…貴方、同化の意味わかってる?同化ってね、身体の一部になってるってコトよ?』
その一部が、体を支配する。
根元を断ち切らない限り、アクマ化は止まらない。
『その一部を取り除かない限り、私はアクマに有り続ける』
「…くっ」
その一部を見付けることなんて、出来るだろうか。見た目は変わらず、自分のよく知る玲子さんだ。どこにも、異状なんて見当たらない…。
『貴方になら見えるでしょ。その左目があるのだから』
「…え…?」
『貴方のその目でよく見てみなさい。まがまがしく揺らめくものが見えるはず』
死人の魂は見えずとも、見えるはず。ダークマターが一番濃く浸透している部分がね。
『よく目を懲らしてみてご覧』
貴方は、絶望の淵に追いやられることでしょう。
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