□謡われた魔術師
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道を切り開くものとして代々伝えられた存在だった。当時ではなくてはならない存在。今では、ノアのほとんどがその存在を忘れかけている。ただ一人、伯爵だけは忘れてはいないだろう。

伯爵はガーネットを仲間に入れたがる。

ノアの13の使徒とガーネット。これが従来の一派だった。しかしいつしか、ノアの中でガーネットの存在が薄れはじめていった。

原因は、14番目の裏切り。

伯爵は14番目がガーネットをたぶらかし、そしてノア全員から記憶を奪っていったのだという。
14番目はガーネットのその力をノアに渡さないように、誰にも見つけられないような所へと隠してしまった。

それを知った伯爵は、激怒し、そして血眼になってガーネットを探し続けた。

だが、いくら探しても見つからなかった。それもそうだろう。

ガーネットは宝石であり、人である。手掛かりといえば、ガーネットが導く赤い光のみ。

たったそれだけの手掛かりでこの世界中を探し回るのは、無謀といえよう。
このように人に溢れ、人の中にガーネットを隠した14番目を伯爵は恨みに恨んだ。

己の手の内に収め、その力を我が物にする機会を逃したのだから。


そして、経路は分からないがそのガーネットの意思を玲子が継いでいるという。


〈魔眼にはいくつかの種類があって、その種類によってランク分けされている〉


魔眼は、ランク別に緑、赤、黄金、宝石、虹の順に格上になっている。
普段の玲子の場合、イノセンスを発動した際に眼は赤に染まる。よって、ランクは格下の方になる。

しかし、ガーネットの意思を継いでいる者となれば話は別だ。

魔眼のランクは一気に上がり、普通の魔眼では太刀打ち出来ないほど強力なものとなる。


これらをまとめて簡単に言えば、今の玲子はノアの血が濃くなっていることが分かる。ガーネットの意志を継ぎ、覚醒しかねない、ということだった。

異世界者という不安定な試みは、良くもあり、悪くもあった。そういう結論を導き出してしまった。


〈これからは、お前自身もその力を自覚していかなければ、直ぐにその強大な力に飲まれるぞ〉


念を押すようにオドは言う。

ガーネットの意思はノアに洪水を教え“導いた者”というその潜在意識がノアの中では根強く生きており、絶対的な存在である。

ノアの一族を導いたもの。各々にガーネットの記憶はなくとも、メモリーに深く刻み込まれていることだろう。

アクマからいえば、ノア同様に服従するに値するもの。


ノアにとってガーネットは特別。
そして伯爵は、玲子がガーネットへ完全に目覚めるのを待っている。

それもそうだろう。

イノセンスを宿しているとなれば伯爵側の敵ということになる。

味方となれば、ノアを導くガーネットとなり心強い。そして、イノセンスの力も手に入れることが出来る。
敵となれば、全てを支配するメデューサとなり、最大の敵となるだろう。

だが玲子はその両方を持っている。玲子がガーネットに目覚めれば、どちらの力も手に入れられる。
だから伯爵はガーネットになることを望んでいるのだ。




今まで知り得なかった情報に呆然とし、オドという声だけの主に、玲子は反応を示さなかった。



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