□謡われた魔術師
4ページ/6ページ








玲子はこの世界に来て、体が軽くなったといった。だが、それはオドの力ではない。

この世界の者ではない玲子だからこその現象だった。この世界の負荷を三分の一も受けない異世界者。異世界者とはそういうものだという。

オドが玲子に使っている力はほんの僅か。オドの膨大なエネルギーをすんなりと受け付けるが為だ。少しの力でも、その何倍もの力を発揮する。そして長く続く。

そして気にかける手間が無くなる分、千年伯爵に世界が飲み込まれないように、オドは集中して世界に目を向けていられる。


〈だからお前が必要だったんだ。だからお前を呼んだ〉


しかし、「オドを受け付けやすい」という異世界者ならではの体質、加えて順応が早い玲子は、脆刃の剣といえる。

なぜならオド自身の影響も受けやすいということになるのだ。


〈俺の影響を受けやすいお前は、俺の魔術の影響を受けてしまったらしい。それが身体に作用して魔眼を手に入れてしまった〉


そしてその魔眼こそ、玲子のイノセンスであり、伯爵の恐れるもの。

世界の膨大な力だけではなく、オドの魔力も少なからず受けてしまったのだ。

全くデータのない試み。
異世界者といい未知な存在。

これらはオドにとっても初めての事であり、唯一の誤算だったという。




魔術の影響を受けやすいという事は、ダークマターも同じだという事だ。

ダークマターは魔動式ボディを動かす核の役割を担うもの。
簡単に言えば魔術で動く物質だ。

魔術の影響を受けやすい体質という事は、ダークマターの影響も受けやすい体質だという事にも繋がる。現に玲子の体内には、まだ吸収したダークマターが残存している。

よって、魔眼を手に入れているという事は、魔眼が有る限り魔術を受け、魔術を受けるという事はダークマターの影響も受け続けるという事になるのだ。

ダークマターを取り除こうとすれば、魔術の影響も消え、魔眼も消える。

理論的には間違いではない。
しかし、良いことばかりという訳でもなかった。なぜなら、魔術、魔眼、ダークマターの全ては、決して離れてはならないものと強く結び着いているからだ。

それが、イノセンス。


魔術、魔眼、ダークマターは、イノセンスと強く結び付き、一つでも失えば全て失うという事になるからだ。

負のエネルギーがあり、正のエネルギーがある。その両方を利用するのが玲子のイノセンス。

イノセンスとダークマターにも強く結び付き、互いに影響を及ぼすことが出来る。それ故に、玲子のイノセンスは唯一、アクマもイノセンスも破壊できるイノセンスであるという。

従来のイノセンスとは似て非なるものだった。


〈…お前を先に手に入れた方が、この戦いの勝者といっても過言じゃない〉





伯爵は気付いている。


玲子の存在を。


赤い眼。

ダークマターを取り込む体質。

ノアの血を受け入れた人物。

異質のイノセンス。



そしてあるモノが玲子の中で目覚め始めているという事。

赤い眼は、「あるもの」を表しているという事。あるものとは、ノアにとっては絶対的な存在。




それは、「導きのガーネット」という存在。



ガーネットとは、ノアの大洪水から方舟の道を照らしたと言われる太古の宝石。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ