□謡われた魔術師
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しかし、玲子が食い下がると少しだけならと話し出す。


「俺はダークマターを吐き出させるためにお前を剣で刺した」


その剣はクロスの魔術が施してあり、そのお陰で玲子は助かったといえる。
ただ、玲子に直接剣を刺したクロスは、玲子の身体から己の魔術の剣へいくつかの力が伝わってくるのを感じていた。

その内の一つは、自分と同じ魔術の力。独特の波動の魔術、それはオドのものだと判断し、玲子と話してそれは確信と変わった。

だが、もう一つ、出所の分からない力が働いていたのも事実。その出所の分からない力がクロスの魔術を相殺しようと働いている事をこの手で感じていた。

魔術とは別の力が、玲子の中にはまだあるということ。


「…まさか、な」


表情が曇り出すクロスに不安を覚え、何なのだと聞くが、「仮説を過信するな」と言われそれ以上は答えてはもらえなかった。



「それと、コイツを連れていけ」


そういってクロスから手渡されたのは、ティムキャンピーとよく似た深紅のゴーレム。


「コイツにはあらかじめ色々細工をしておいてある。万が一お前がまた暴走しようものなら、コイツが止めてくれるだろう」


その紅いゴーレムには玲子のイノセンスの力を僅かにリンクさせていた。

そのため、もしも玲子がダークマターに侵食されそうになった時でも、リンクされたイノセンスの力で多少は抗う事は出来る。

簡単に言ってしまえば、リミッターというものだろうか。そういうにはまだ力は小さすぎるが、玲子を守るための策の一つとなる。


「恐らくないとは思うが、もしものためだ。持って行け」


ダークマターは抜けきった訳ではない。まだ玲子の中に眠っている。それを起こして暴走に走るかどうかは分からない。

この紅いゴーレムは保険のようなものだった。





そして、話はそれだけだといわれ、こちらからの質問は打ち切られた。

結局、オドの詳しい事は話されず、玲子は「詳しい事はオド本人に聞け」と言われ、その部屋から閉め出された。

納得いかない玲子は閉め出された後もドアの前で不満を口にしていたが、最終的にはしょうがない、と去って行った。

クロスはドア越しに玲子が遠ざかっていくのを確認すると、玲子の中にいるものの確認が取れ、一先ず難所をクリア出来たか、と小さなため息をついた。


「…なんつーもんを身に宿してやがるんだよ、アイツは…」


先程玲子との話を思い出し、おおよそ予測はしていた事ではあったが、やはり驚きを隠せないでいた。

その原因はやはり、玲子の中にいるオドの存在だった。




「オド」
魔術師の中でその名を知らぬものはいない。

“偉大なる魔術師”と、影の者には伝えられていた程、オドの存在は魔術師の中では大きなものだった。

それもそのはず。

オドは魔術師であり、神である。


そう讃えられるようになったのは、彼が二千年生きたという話からだった。
昔から魔術師は「二千年生きると神になる」と言われ、オドはその言い伝え通り二千年間生きた。

彼が二千年生きたかどうか疑う者も中にはいたが、それを証明出来る事実が一つだけあった。

その事実とはある書物に書き記された二千年間の記録、オドが千年伯爵と戦ったという事だ。

ノアと敵対した魔術師だと。



「…無茶苦茶だな…アイツ」



ノアと敵対した魔術師。

しかし彼一人では伯爵とノアの一族には敵わなかった。強大な魔術を使いながら戦い続けるオドの肉体には限界があったのだ。




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