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□見破られた正体
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あの恐怖のウイルスに感染したゾンビ集団から見事生き残り、アジア支部のバクへ連絡を取りワクチンを作らせるというミッションを終えた玲子。
一騒動終えた後は、何とか教団の引越しが一段落つき、玲子はコムイに進められアジア支部にと向かっていた。
『あの時は本当にありがとうございました』
「気にするな。あんなワクチンくらい、僕にはたやすい事だからな」
バクは玲子の無線の連絡がくるのとタイミング良く、こちらに向かう途中だった。
『コムビタンDもそうですけど、あたしの男化まで解いてもらって本当に助かりました』
「いやいや、護衛についてくれた礼だ。あのゾンビ集団からな」
バクに深々と頭を下げて玲子。バクはそれこそ気にするなと言って笑った。
「まあ、最初見た時は驚いたがな」
『…それはそうですよ。知らない男に助けを求められて、しかもあたしだって名乗られても』
「普通は信じられんからな」
しかし連絡先は旧本部。そこにはコムイがいる。そのため有り得なくはないと思えた。とりあえずその謎の男を検査してみると玲子本人だということが分かり、直ぐさま効力を相殺できる物を作り出した。そのバクの早い対応のお陰で玲子は元に戻ることが出来たのだ。
日を改めてまたお礼を言いに来ようとしたが、中々引越しの支度ははかどらず、引越しの準備が終わった今、やっとの事で来れたのだ。
「月宮は新本部のゲート繋ぎの手伝いはしなくてよかったのか?」
あまり落ち着いてはいないだろう新本部。明日には全員が移動するとはいえ、多少仕事はあるだろうに。
バクはそれこそきちんと落ちついてからでも全然構わないと思っていたからだ。
『ゲート繋ぎにはあたしは邪魔になると思って。それに折角コムイさんが行っておいでって言ってくれたので。それに…』
「…? それに?」
『バクさんが会いたがってるって聞いて。…あ、バクさんが一番喜ぶリナリーじゃなくて申し訳ないんですけどね』
そう冗談を交えて言えば、バクは慌てて玲子の口を押さえて周りに聞かれなかったかとヒヤヒヤしていた。
玲子は心配されて、それから会いたがってもらえている事が嬉しかったため、衝動的に来てしまったと笑った。
悪気のない冗談であり、仕方なく押さえた口を放してやる。玲子の嬉しいという純粋な気持ちが伝わり、怒る気も失せてしまったのだった。
ふわりと胸が優しく包まれるような柔らかい笑み。
ふわふわとする胸につい手を当てて、自分の存在を確認する。今の玲子を見て、心の底から良かったと安心している自分がいる。
本来、この子はよく笑う子なのだ。今のこの子は、心の底から笑っている。感情表現の豊かな子。
イノセンスを失った時の彼女は、無理矢理作った笑顔を浮かべて苦しげだった。アジア支部では作り物の笑顔しか見ていなかった。
しかし、笑えるようになった今は違う。よく笑う、普通の子だということが分かった。
だから本当に安心した。
『バクさん…?』
「え?ああ、何でもない」
こうやって顔を覗き込んで来るという事も、普通に有り得る話。けれど、その普通の仕草が見られるという事が嬉しかった。
リナリーを見ているときとは違った安心感を玲子からは感じた。
不思議だ。
リナリーを見れば激しく脈打つ心臓。玲子の場合はとくとくと脈打つ。そのくすぐったような脈打ちが心地好くて優しい。
その感覚に酔いしれていたいと思ってしまう。だから不思議だった。
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