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□見破られた正体
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そんなやり取りをしている間に、瓶一本が空になった。クロスはもう無くなったのかと少し不機嫌になりかけていた。
どうやら呼び付けた目的を忘れているようだ。
『クロス元帥、そろそろ…』
此処に呼び付けた本当の理由を聞かせてほしい。
そのような眼差しを向けると、クロスは一気に酔いが覚めたかのように、スッと視線が鋭くなった。
クロスの右手は玲子の左頬に添えられ、距離を狭まれる。クロスのこの行動が、一体何を意味しているのか理解できず、取り敢えずじっと動かないで様子を見てみる。
すると、予想だにしない言葉がその口から紡がれた。
「…お前は、綺麗だな」
『………へあ?』
この状態で何を言うのだ。
『…ふざけないでくださいよ』
「つれねぇ奴だな」
やれやれと肩を竦め、そんなに辛気くせぇ話をしたいのかとため息をつくクロス。
『辛気臭いも何も、その為に呼ばれたんですよね、あたし』
確かにそうだが、しばらくぶりの再会をまず喜ぶべきだろうというクロス。だが、瓶一本空けたのだから再会祝いは十分だろうと玲子も引かなかった。
渋々クロスは本題に入ろうとするが、その前にといってティムキャンピーを操作しはじめた。
『何をしてるんですか?』
「あ?記録させないように改造してんだよ。もう少し待ってろ」
そう話しつつも作業は終わったらしく、ぽちょっとティムキャンピーをソファーの上に落とした。
見た目は変わらないが、機能は変わったらしい。記録出来無くなった代償なのか、ティムキャンピーは羽ばたくことは出来ても飛ぶことは出来無くなっていた。
『…少し可哀相な気がしますけど』
「だがお前の為だぞ」
気遣いは嬉しい。
それと同時に、ティムキャンピーにまでも気にしなければならない内容なのかと思うと、一体どんな話しなのか不安になってくる。
新しい本部。
呼び出したのはクロス。
誰もいない部屋。
人気も無い。
そして、記録されては困ること。
こちらの歩が悪くなる、ということよりも
中央庁に知られてはならないこと、なのだろうか。
中央庁が絡むということは、玲子自身に影響が及ぶことも表す。アクマ化した玲子を見たルベリエは、処刑されこの世には居ないと思い込んでいる。
そんな状況でのクロスとの密会。
嫌な予感がしない方がおかしい。
そして突如、クロスが口を開いた。
「いるんだろ、出てこいよ。
――…“オド”」
“オド”
初めて聞く名前。
しっかりとその見知らぬ名を呼んだクロスは、玲子を真っ直ぐ見て離さない。
『…え…』
そんな風に見られても、どう反応したら良いのか分からない。
自分は、そんな名前ではない。
自分は月宮玲子だ。
“オド”という名前ではない。
“オド”なんてそんな名前、知らない…。
初めて聞く名前。
きっと人違いだ。
そう思っていても、クロスの視線は外れることはない。ずっとこちらを見続けている。こちらの反応一つ一つを見逃さないように、しっかりと目に焼き付けているかのように。
そして再度、その名を呼んだ。
「お前も隠れんぼは得意分野だったが、俺も得意でな。得意分野同士、見つけるのも得意なんだよ」
分かったらさっさと姿現せ、と煽るクロス。
そんなことを言われても訳が分からない玲子はただクロスの視線に捕らえられるだけ。
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