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□変化して
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それを聞いたコムイは呆れるやら安堵するやらで、忙しい感情の揺れが発生した。
玲子にとっては
クロス=借金
つまり、同じようにという言葉は「同じように借金取りから脅される経験をしてみるか?」
という風に思ったらしく、玲子は真っ青になったのだと言う。
だが傷つけたのは自分のため、「YES」と返事をしようとしたときにコムイが現れたらしい。
我ながらタイミングが良かったと思った。
何故なら、あの雰囲気
おそらくコムイが考えている事をクロスはしようとしていたと思うからだ。
そのため後一分遅かったらと最悪の自体を考えてしまう。しかも相手はあのクロス。
薄暗に隠れて何をしているのか判別しづらいところ、声を掛けておいて、助けておいてよかったと本当に安堵した。
『まあ…、結局からかわれただけですなんですけどね』
やられました、と苦笑を浮かべる玲子。その分、自分もちょっとだけ仕返してみたが、あれくらい、痛くも痒くも無いだろうな。
冗談で本当に良かった、という安堵の気持ちが現れていた。
「…ところで」
成る程ね、と一通り理解したコムイは話を切り換えた。今までとは違うことを話し出す表情は、何とも微妙といった顔だった。
「玲子ちゃん、帰ってきて喧嘩でもしたのかい?」
『…え?』
苦笑いをしながらコムイは言う。
「最近、っていうかここ教団に帰ってきてから全く話してないじゃ無いか」
『あの、…誰と?』
コムイは、それこそ気付いていなかったのかとさらに苦い顔をしていた。
「神田くんとだよ」
自覚なかったのかい?
と困ったように言うコムイ。玲子はその一言に面食らい、動けなくなった。
『…そう、でしたっけ?』
「あはは、やっぱり気付いてなかったんだね」
意外と鈍いんだね、と笑うコムイ。
「僕から見たら、二人にしては珍しい光景だったからね」
限られた空間の中に居るのに、話すことは疎か、顔を合わせることもなかったのだから。
「ちょっと、心配しただけだよ」
何と無く、玲子が距離を置かれているのは分かっていたから。
玲子ちゃんは、意外と鈍い。
今まで神田くんと顔を合わせて話していない自分に気付いていなかったから。
まあ、気付けなかったのは仕方ないか。目が見えないという恐怖から解放されたのだから。嬉しさで回りが見えなくなるのは仕方ない。
問題は、神田くんだ。
彼は、神田くんは教団に戻ってきてから、ずっと玲子ちゃんを避けているような気がする。
ルル=ベルの襲撃や、レベル4出現後からそんなふうに感じていた。
…違う。
気がするんじゃなくて、実際避けているんだ。神田くんは。
でも、分からなくもないかな。僕が今リナリーと気まずい理由と同じようなものだろうから。
「神田くんも人の子だったって事だね」
戸惑い、今この現実に困惑する。大切な子を戦場に送り出す。それしか出来ない僕。唯一の身内のリナリーを守ってあげたい。支えてあげたいと思っていても、立場上それは叶わない。それが悔しくて、悲しいくて。
進化したリナリーのイノセンスは、命にかかわるのかどうなのか、考えるだけでも恐ろしい。それをどう受け止めて良いのか分からず、ぎこちない感じになっている。
神田くんも多分、同じなのだろう。今までこの教団を守ってきていた玲子ちゃん。誰よりも仲間を大切にしたいと願っていた子が、伯爵によりアクマされてしまっていた。それも大分前から。
仲間だと口にはしないけれど、心は許していたであろう神田くんは、僕がリナリーに対して悩んでいるのと同様に、今の玲子ちゃんにどう接したらいいか分からないんだろう。
玲子ちゃんがアクマ化したという事。
ダークマターを取り込みやすい体質だったという事。
一度仮死状態になりまた生き返った事。
流れていくように一度に大量な情報が入りすぎて、頭で整理ができていないんだ。
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