story

□力無い君と
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シュルシュルと包帯が解かれていく。

現れる顔に残る傷痕。


以前の任務で負った傷が露になった。



「…これは奇っ怪な」


アレンが負った傷、潰された左目が早くも再生し出していたのだ。

治療に当たったブックマンは治りかけている傷に針は必要ないだろうとしまい込んだ。



「"呪い"だそうだな」


ブックマンは静かに視線をアレンに向ける。


アレンは治療されなかった左目を押さえて頷く。


ブックマンはエクソシストをやっている、とアレンに手を差し出した。



「あちらの小僧はラビ。私の方に名は無い。
ブックマンと呼んでくれ」


アレンは差し出した手をとった。











玲子は静かな寝息を立てていた。


リナリーと同じで神経にダメージを受けたせいか、未だに眠り続けている。


目覚めるのは、いつだろうか。


「案ずるな。玲子嬢にも針は打って置いた。じきに目を覚ます」

「…そか」



じじいが針を打ったなら心配は無い。


後はただ玲子が目覚めるのを待つだけだ。


ラビは側にあった椅子をベッドの隣に置き静かに腰を掛けた。


ギシッと音が立ってしまったが玲子はまだ眠っているようでほっとした。



「わしは出る。くれぐれも玲子嬢には手を出すでないぞ」

「…へいへい」



キィ、とブックマンは静かにドアを閉めて退室した。


ラビはじっと玲子の顔を見つめていた。



――そういえば、俺が見る玲子はいつも寝ているような気がする。


ラビは自分の記憶を蘇らせた。


…初めて会ったとき、教団に戻った時。


失踪して捕まって、神田の腕に納まっていた時。


教団に戻って発狂が治まった後の見舞の時。


そして今の玲子。


全てが眠っている。


人より多く玲子の寝顔が見れて嬉しいとは思うが、反面、嬉しく無く感じることもある。



寝顔は俺に見せているけど、それは玲子の意思では無く、俺が勝手に見ているだけであって。


神田には泣き顔を。

コムイには信頼を。

笑顔は皆に取られている。


俺の欲しいものはいつだって手に入らない。


この寝顔もいつかは誰かに取られてしまうのだろうか。


そうしたら俺には何も残らない。


じっと綺麗な顔立ちをした玲子を見た。


普段はよく見ない睫毛。

すっと筋の通った鼻。

桜色の唇。

シャープな顎のライン。

今は閉ざされて見えないが琥珀色よりも薄い、透き通るような眼。


綺麗な顔。


横顔だけでも感嘆のため息が出る。


玲子の顔はいつだって俺の頭に焼き付いて離れなかった。



こんなに執着したものなど今までなかった。


人と人との間を行き来していた自分。


その関係はいつだって広く浅く。


深入りするものなど無かったのだ。


そしていつも、人間は情報源としてでしか見ていなくて。


いつか離れるものだと知っていたから、ふっ切る事など得意中の得意。


教団に来てもそれは同じだと思っていたのに。



全然違った。



玲子に出会って、自然と笑って、話をするのが楽しくて。


普通に感情を出すのが嬉しくて、ついつい玲子の後を追っ掛けていた。


今日は何を話そうか。


話題を振るたび玲子は喜んで聞いて、笑ってくれて。


つられて俺も笑って…。


そういうことを、今もしたい。


玲子を独り占めしたい。


誰にも、渡したくない……。



「玲子…。早く目ぇ覚ましてくれな……」



起きたら、真っ先に俺に会いに来てくれないか。


「玲子、早く起きて」


笑顔また、見せてくれ。


ラビは玲子の頬に軽く触れると、その部屋を後にした。












「コムイさん、入りますよ?」


アレンはドアの前でそういうと、部屋に入る。


なんだか開きにくいドア。


それは大量にコムイが持ち込んで来た書類の山にぶつかっていたためだった。


部屋全体にある書類の山。

そこにリナリーが埋まるように眠っていた。





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