story

□力無い君と
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この先に玲子がいることを願って昇る。


祈って足を進めるのに、その先に進むことを怖れてもいる。



もし、いなかったら――?



最後の一段を昇りきり屋上のドアを開いた。



階段の薄暗かった空間に、眩しい光が差し込んでくる。


空の色

外の空気

屋上のコンクリート

フェンス

取り込まれていない洗濯物


屋上にあるべきものは全て揃っている。


綺麗な青も、所々に浮く雲も、朗らかに飛び立つ鳥達も全て。




「――――っ!」








けど



いない。


探しているものは、無かった。



うそだろ…。



ドアを開けてすぐの所でラビはへたり込んでしまった。


足がガクガクして立っていられなかった。


目の前の現状を、受け入れたく無かった。



「玲子……っ…」



探した人は、いなかった。


僅かな希望も踏みにじられ、また玲子は俺の前から姿を消した。



――俺が、玲子の手を離したから

俺が、部屋から出て行ったから―




全てが、過去と二の舞。

全て俺のせいで…。




ラビは自分の浅はかさ、力の無さに悔いた。


拳を握り、地面に何回も打ち付ける。



「――…くそ…っ


くそぉぉおおぉおぉ!!!!






なんで、どうして。


どうして俺には後悔しか残らない。


どうしてこんなにも同じ事を繰り返してしまうんだ。


なんで、どうして…。


どうして、玲子…っ!





















『……あのー、ラビ?』
















「―――…へ?」





頭上からびくびくした声が俺に降ってきた。



コンクリートの地面から、空へと視線を移した。




「……玲子…」

『…どうしたの?』




玲子がいた。


首を傾げてこちらを見てる。



「本当に…玲子?」

『そうだけど…?』





「本当に?本当に玲子?エクソシストの玲子?」

『あたしじゃなかったら誰になるのさι』



本当に?本当に?と繰り返すたび玲子は苦笑して答えてくれた。


玲子は自分の立ち位置から飛び降り、ラビの手前に着地する。


ズイッと顔を近づけて笑った。



『あたしの顔は忘れましたか?』


口元に手をあて、クスクスと笑う。


これは玲子が笑うときにする癖。

何か考えているときは顎に手をあて、暇な時には髪をいじっていた。


そのうちの一つの癖。



「…玲子」


返事の代わりに微笑む玲子の笑顔は入団当初と変わらない。


優しくて、和んで、でもどこか淋しげで。


少し距離を置いているような笑顔。


儚いような、守ってやりたい、そんな笑顔は俺の好きなもの。



「……」


無意識に掴んだ玲子の手を、玲子の頭に沿えた手を


そのまま腕に引き込んだ。


自分の腕に玲子を収め腕にぎゅっと力を込める。




玲子がいないって思ったら、目の前が真っ暗になった。


血の気も引いた。


前と同じ、絶望だけが己の身を飲み込んでいって。


その苦しさは、今まで味わったことのない苦しみだった。


自分が手放したから、玲子をボロボロにさせてしまって

自分のせいで玲子は消えた。


自分の事ばかり責めても玲子が帰ってくる訳じゃ無いのに、一人で絶望して叫んで。


天から降って来たのは玲子の声。


舞い降りるように目の前に現れてくれた玲子。

相変わらず綺麗な笑顔をくれた。


だから、もう離したくないって思った。

失いたくない。


玲子の存在を確かめるように、きつくきつく抱きしめた。



『……苦しいぃ…』

「…俺も、苦しかった…。意味は違うけど、すごく…すごく」



腕の中に納まる玲子は苦しいというだけで、抱き締められた事に関しては嫌がった様子は無かった。






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