story

□迫る時間
1ページ/8ページ








「盲目の理由」



この人は今、何て言った?



ティキが言った、盲目の理由。ただすらすらと口を滑らせて話しているティキを、呆然としながら聞いているしか出来なかった。

話しが終わり、いつの間にか側に来ていたロードにさえ気付かなかった。ロードは「大丈夫?」と頬を触るけれど、その感覚さえ鈍くなっていた。

衝撃が強すぎて、訳が分からなくなった。


「玲子、」


ティキの声が再び降ってきて、はっと我に返るが何と声を発したらいいのか分からない。手が、震えていた。

それで、それで…


「玲子」


肩をがっしりと掴まれ、動揺を押さえつけられた。震えは小さくなった。


『…はは…』

「…」


訳が分からなさすぎて、笑いが出た。なんかもう、本当に分からないや。


「…とりあえず傷の手当てしようよぉ。痛いでしょぉ?」


アレンのイノセンスにやられた傷は、再び開き、血が流れた。イノセンスに対する拒絶反応だって。
新しくなったアレンのイノセンスを、あたしは拒絶する。反動で傷が開く。

痛みが、また戻る。

あの時、仲間につけられた傷。
悲しみ、絶望。

すべての痛みが戻って来る。


「イノセンス、解いて良いよぉ。もう痛くしない。」


だって、いっぱい、いっぱい痛かったんだもん。もう、我慢しなくていいんだよぉ。


『…ロード…』

「なぁにぃ?」

『……なんでも、ない…』


言ってはいけない。

「どうしたらいい?」なんて言ってしまったら、その答えに縋ってしまいそうだ。
出かけた言葉を飲み込み、大人しくイノセンスを解いた。同時に傷口の痛みが戻り、血が滲む。苦痛の声がわずかに漏れた。



傷が早く治るように、と願ながら、ロードの手当てに大人しく応じる。


「…この服、血だらけ」


ティキは包帯を巻いている時に、突然入ってきてそういった。

血だらけ。それはそう。

傷は、深いから。



『…え、……ティキ?』

「ん?何」


この部屋に居るの?
出ていったんじゃなかったの?
だって、今、今…


「安心しなって。ガッツリとは見てない」

『〜〜…っ!!』


羞恥で顔が熱くなる。いくら後ろから声が聞こえているからって、背後に居るからって、後ろ姿を見ているからって、今の姿、ハッキリ物申せば

上半身裸。

念のためとはいえ、ロードが貸してくれていたタオルがあるからそれで隠してはいるけど。でも


「…お前背中綺麗だな」

『ティキミックーーーッ!!!』


日本人だし。

恥じらいは、外国人さんと比べたら何倍も強いよ。

恥ずかしさとデリカシーの無いティキの行動に怒りが爆発。途中までしか包帯が巻かれていないため、身動きが取れないのがすごく悔しい。


「…玲子〜、傷開いちゃうから大声出さないでぇ。あとティッキー、終わるまで出てろ」


へいへい、と言って出ていく。
ティキに対してキツイ態度のロードが凄く頼もしく見えた一瞬だった。




「…玲子は戦線離脱して正解だったよ。この傷、多分この戦いに耐え切れる程のものじゃないもん。傷が開いて、イノセンスで固定したとしてもね」

『…ロード』


ティキが出ていった後、ロードが再び口を開いた。止血をして、包帯を巻いていても、また少しずつ滲んで来る赤。

この子を、信用しても良いのだろうか。手当てをしてくれているとはいえ、今まで敵と言われて来たこの子を。




次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ