story
□迫る時間
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「盲目の理由」
この人は今、何て言った?
ティキが言った、盲目の理由。ただすらすらと口を滑らせて話しているティキを、呆然としながら聞いているしか出来なかった。
話しが終わり、いつの間にか側に来ていたロードにさえ気付かなかった。ロードは「大丈夫?」と頬を触るけれど、その感覚さえ鈍くなっていた。
衝撃が強すぎて、訳が分からなくなった。
「玲子、」
ティキの声が再び降ってきて、はっと我に返るが何と声を発したらいいのか分からない。手が、震えていた。
それで、それで…
「玲子」
肩をがっしりと掴まれ、動揺を押さえつけられた。震えは小さくなった。
『…はは…』
「…」
訳が分からなさすぎて、笑いが出た。なんかもう、本当に分からないや。
「…とりあえず傷の手当てしようよぉ。痛いでしょぉ?」
アレンのイノセンスにやられた傷は、再び開き、血が流れた。イノセンスに対する拒絶反応だって。
新しくなったアレンのイノセンスを、あたしは拒絶する。反動で傷が開く。
痛みが、また戻る。
あの時、仲間につけられた傷。
悲しみ、絶望。
すべての痛みが戻って来る。
「イノセンス、解いて良いよぉ。もう痛くしない。」
だって、いっぱい、いっぱい痛かったんだもん。もう、我慢しなくていいんだよぉ。
『…ロード…』
「なぁにぃ?」
『……なんでも、ない…』
言ってはいけない。
「どうしたらいい?」なんて言ってしまったら、その答えに縋ってしまいそうだ。
出かけた言葉を飲み込み、大人しくイノセンスを解いた。同時に傷口の痛みが戻り、血が滲む。苦痛の声がわずかに漏れた。
傷が早く治るように、と願ながら、ロードの手当てに大人しく応じる。
「…この服、血だらけ」
ティキは包帯を巻いている時に、突然入ってきてそういった。
血だらけ。それはそう。
傷は、深いから。
『…え、……ティキ?』
「ん?何」
この部屋に居るの?
出ていったんじゃなかったの?
だって、今、今…
「安心しなって。ガッツリとは見てない」
『〜〜…っ!!』
羞恥で顔が熱くなる。いくら後ろから声が聞こえているからって、背後に居るからって、後ろ姿を見ているからって、今の姿、ハッキリ物申せば
上半身裸。
念のためとはいえ、ロードが貸してくれていたタオルがあるからそれで隠してはいるけど。でも
「…お前背中綺麗だな」
『ティキミックーーーッ!!!』
日本人だし。
恥じらいは、外国人さんと比べたら何倍も強いよ。
恥ずかしさとデリカシーの無いティキの行動に怒りが爆発。途中までしか包帯が巻かれていないため、身動きが取れないのがすごく悔しい。
「…玲子〜、傷開いちゃうから大声出さないでぇ。あとティッキー、終わるまで出てろ」
へいへい、と言って出ていく。
ティキに対してキツイ態度のロードが凄く頼もしく見えた一瞬だった。
「…玲子は戦線離脱して正解だったよ。この傷、多分この戦いに耐え切れる程のものじゃないもん。傷が開いて、イノセンスで固定したとしてもね」
『…ロード』
ティキが出ていった後、ロードが再び口を開いた。止血をして、包帯を巻いていても、また少しずつ滲んで来る赤。
この子を、信用しても良いのだろうか。手当てをしてくれているとはいえ、今まで敵と言われて来たこの子を。
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