story
□迫る時間
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少しだけ場の雰囲気が変わった気がした。
沈んだ空気といえば良いのだろうか。
「…おやすみ、スキィーン」
ロードの声が、本に篭りながら聞こえた。本で顔を隠しているようだ。
その声を聞き、すかさずティキが声を発する。
「甘党の負け?」
「んーん、アレン達を先に行かして一人残った奴はボクの扉を通った感じは無かったぁ」
「相打ちね…」
二人の言葉を聞きながら、玲子は心臓がドクンと嫌な感じに跳ね返った。
『……あ…いうち…?』
ロードの言葉が耳に入った。
一つ目のドア。
『…神田…?』
ドアを通った感じが無かったということは、その場に残ってしまったということ。しかし、ダウンロードが済んでしまえばその部屋は消えてなくなる。
ということは、神田は…。
『…うそ、だ…』
あの神田が、負けるわけ…。
負けるわけ、ない…。
でも二人の言っていることが嘘とも考えられない。
どちらも真実とは限らない。だったら、最後まで自分が信じていなくては。
神田は生きてる。
そう信じよう。
今はそれが精一杯出来ること。
ティキとロードの二人は自分達が流している涙を見て語る。ロードはティキが流している涙をからかいにいくがやめろと阻止された。ティキは勝手に涙が流れた事が、自分の中にあるノアが泣いているのか、と言った。
「ノアが、泣いてるのかもね」
ロードがそう言い終わったと同時に、ドアが派手な音を建てて勢いよく外れた。
「ロードティッシュある?」
「あらー、お前らの涙って黒いんだ」
「バカティキ!!」
「メイクが落ちたんだよヒィ!!」
声からして二人、この部屋に入ってきた。
メイクが落ちて真っ黒になっていた顔をタオルで拭く。
「つーか誰?」
「見たこと無いよヒィ!」
ジャスデビの興味は静かに椅子に座る玲子に向けられた。視線も何も向けず、ただ床を見ているようにして動かない玲子。
自分の事だと分かっているが、あえて反応はしない。
「ティキの彼女?ヒッ」
「違ぇだろ。おめかししてまた新しい人形遊びかロード?」
玲子をロードの着せ替え人形のアクマだと思っているのか、銃口を向けて額をペシペシと叩く。
「ちっとも反応しねぇな。おいアクマ」
「ヒヒッ!オーイ!」
銃口を当てるだけならまだしも、耳の側まで来て大声を張り上げるジャスデビの二人。
『……………』
いい加減にしろよ。
鼓膜破けるだろうが。
今だに反応を示さない玲子にさらに大きな声で叫ぶ。
『……調子に乗るな』
「おっ?」
「やっと反応した!ヒヒッ」
ようやく反応をしたのが面白かったのか、銃口で玲子の額をコンコンと叩く。それは段々エスカレートしていく一方だ。
『ねぇ』
「「ん?」」
『ボコボコにされるのと、切り刻まれるのと、どっちがいい?』
「「え…」」
黒い影を自在に伸ばして脅しはじめた玲子。
『その態度、何?』
ニッコリと笑顔を向けている。
ここでジャスデビは自分達が今、危機的状況だということを思い知る。
『鼓膜破れるところだった』
「…え」
『額、痛い』
「…あ」
『どうしてくれようか?』
今の自分は無力だということを思い知ったばかり。イノセンスの力も満足に使えない今、頼れるのは自分の体のみ。
それでも、体は傷だらけで、動くことさえままならない。体に響いて痛むから。
無力な自分にイライラしはじめた頃に、タイミング良くこの二人が来てしまった。
我慢していた気持ちは弾け飛び、今溢れてしまった。
『ぶっ飛ばす!!!』
「「ヒィィイイ!!?」」
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