story

□愛しさと罪悪感
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方舟に乗り込んだ玲子は、出口を探してさ迷っていた。似たような町並みが並び、白い壁が一面を覆う。無限ループに迷い込んだようにさえ思える。


〈どうだ月宮。何か変わった事は?〉

『…んー、今の所何も。変化があれば影ですぐ感じ取りますから』

〈そうか〉


通路を渡り、進んでいく。変化のない道はいつまでも続く。同じ道ばかりで進んでいる気がしない。感覚も麻痺して来るような感じで、ふとした瞬間不安が過ぎる。

ずっとこのまま、この方舟から出られなかったらどうしよう。まさか一生出られなくなって、ずっとこのまま…?
勢い任せに突撃したのは良いのだが、なんだかとてつもなく不安になってきた。

どうしよう。ふあ、不安だ…っ!






江戸はノアと伯爵がアクマを呼び集めていた。アクマの破壊に苦戦しつつ、ノアから聞いた衝撃的な言葉。


アレンが生きてる。
玲子も、生きてる。


江戸帝都。ティエドール部隊と合流したクロス部隊。神田やマリ、元帥の合流によりかなりの戦力を得た。だが、目の前のノアや千年伯爵には敵わず、深手を負ってしまった。

このままやられたらもう勝負は着いたようなもの。この不利な状況をどう回避するか考えていると、いつの間にかノアの姿は消えていた。


そして、ノアが消えた後、方舟から通じてやって来たアレンと再会した。信じられないと思いつつ、嬉しさが込み上げて来る。生きていて良かった、と。
だが、嬉しいはずなのに素直に喜べない。
だってそこにはやっぱり


玲子がいないから


アレンはいるのに、玲子がいない。それが虚しかった。






「リナリー…」

「…アレンくん?」


ぼやける視界がはっきりして、目が覚めた所に居たのは、今ここに居ないはずのアレンだった。
「おかえりなさい」と伝え、再会を喜ぶ。

だが、アレンが目を覚ましたリナリーにいう言葉はすみませんという一言。スーマンを助けられなかったと謝るアレンに、リナリーはアレンの頬を撫でる。

スーマンのことならアレンが救ってくれた。スーマンは無残に殺されたわけではない。心なら救われていたはずだから。
リナリーの言葉に涙して、ただいまと頬に触れられている手に自分の手を添えた。

横からラビが泣いちゃった?と茶化しに入る。泣いてないと言い張るアレンを微笑ましげに見ているリナリー。
今、ミランダのお陰で怪我は吸い取られ無傷にある。辺りを見渡し、ちゃんと皆居ることを確認するリナリー。


「(…あれ?)」


ちゃんと皆居る。何度も見渡して、何度も居ることを確認する。


「…アレンくん」

「? はい」

「玲子は…?」


皆居る。アレンもいるから玲子がいてもいいと思うのだが、姿はない。
リナリーが玲子の名前を出してから、その場の雰囲気が瞬間的に変わった。アレンはリナリーから視線を外し、名前が聞こえていたラビも俯く。その二人の様子を見て察したリナリーは、それ以上聞こうとはしなかった。


「…そっか…」
「…ごめん、リナリー」


ただ、その三人の様子がおかしいと感じた神田は眉間に皺を寄せていた。


「…おい。玲子がどうした」


神田の声に三人のうち、アレンが大きく肩を揺らした。それを見逃さなかった神田は、つかつかとアレンの後ろに立つ。背中で神田の気配を感じながら、アレンは膝に置いた手をきつく握る。


「玲子がどうしたって聞いてんだ」


拒否権はねぇ、さっさと吐け。と脅しを入れる。ぎゅっと握った手がギリっと鳴った。


「…ユウ、玲子は」

「テメェには聞いてねぇ。モヤシ、テメェに聞いてんだ」


アレンの沈黙に苛立ちはじめた。




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