story
□愛しさと罪悪感
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アレンの手には汗が滲み、震えている。
「…アレンくん…」
「アレン。無理すんな…」
二人はアレンがどうしたのか理解でき、神田の質問から少し気を和らげられるよう肩に手を置いた。だが神田はその行動さえカンに障ってしまう。
「テメェら…何隠してる…」
「か、隠してなんかないですよ!」
「だったらなんで言わねぇ」
それは…、と口ごもるアレン。眉間に皺を寄せながらも、真っ直ぐ見ている神田。もう何を言っても神田から真実を反らさずにはいられないようだ。
それからは、口が勝手に動いて自分では何を言っていたのか記憶にない。ただ、神田の表情が険しかったのと、今にも殴り掛かってきそうな勢いで拳が揺れていたので、ああ、言ってしまったんだ、と思わざるを得なかった。
「…テメェッ!!」
案の定神田はアレンに殴り掛かった。アレンは避ける気すら起きず、甘んじてそれを受けた。左頬からは痛みと熱、少し鉄の味が伝わる。口が切れてるんだな、と頭で理解しながら、ぼーっと神田の怒る姿を眺めていた。
「テメェ、何でそんな事しやがった!」
「僕だって、したくてしたんじゃないですよ…」
「言い訳にしか聞こえねぇ!」
ガッとアレンの胸倉を掴みもう一度殴り掛かろうとしていたのをラビが押さえ止める。
「やめろユウ!ここで揉めても何の意味ねぇさ!!」
ラビが神田を押さえ、そう言う。神田は納得せずとも振り上げた拳は降ろされた。それを見てホッとしたラビは神田を離し、俯くアレンは自分がしたことに苦しみながら、地面の砂をザリッと握った。
少しの沈黙が流れた時だった。
リナリーの下に黒い星が浮かび上がり、その途端、リナリーが落ちていくように消えて行った。後を追うようにリナリーの手を掴むアレンもその星に飲み込まれていく。阻止しようと駆け寄った数人のエクソシストも、同じように姿を消してしまった。
びっくりしたである、と人で山積みになる頂点に居るクロウリーが目を回してそういった。
潰れそうなアレンに気付き、次々と下りていく。ラビがリナリーを抱き起こすと、リナリーの下敷きになって薄っぺらくなっているモノに気づく。
それは傘の形をしており、飛び起きたかと思えばいきなり喋りだした。その傘から通じて千年伯爵の声が聞こえる。傘のカボチャの部分から風船の形をした千年伯爵が出てきた。
リナリー一人を排除するためにここによんだといえば、一人じゃないから寂しくないですね、と満足げに伯爵が笑った。
ダウンロードが済んだ所から、この空間は崩壊していく。出口はないと言うと、伯爵の形をした風船は空高く浮かび、見えなくなっていった。
それからは、崩壊していく町をアレンの言った扉を探しながら建物を壊して回った。だがいくら壊して回っても出口は見つからない。
側に浮かんでいる傘のレロは、本当にないんだといっている。
「出口ならあるよ、少年」
不意を突かれ、背後から聞こえた声に振り返る。
そこに現れたのは、いつぞやの汽車でポーカーをしたビン底メガネの男。その男は、へらへらと笑っている。
「出口ならあるよ、少年」
そうもう一度言う男。
そんな男に神田は警戒を解かず、無幻に触れる。その男からは殺気が尋常ではなかったからだ。
男はニヤリと笑うと
「少年、どうして生きてた…の!」
そういってアレンに鈍い音を立てて頭突きをする。お陰でチビ共に笑われたなど、愚痴をこぼす。アレンは痛みで涙目になりながら男に振り返れば、かけていた眼鏡は通り抜けて地面へ落ち、肌が褐色になっていく男の姿があった。
その場にいた者は驚きで言葉が出ず、ただその光景を見ていた。
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