story
□愛しさと罪悪感
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衝撃が走る。
目の前にまた、ノアが現れた。知っていた人物がノアだと発覚した事。ロードの力により出口が現れていること。
そして、
近くにあったドアがゆっくり開いた事。
そのドアが開くと同時に、一斉にその場が殺気に包まれ、気を抜けば殺されてしまうと思える。「恐怖」という感覚が全員の身体を縛り付けた。呼吸さえ、その殺気で止められてしまいそうなくらいだ。この場に居る誰もが、きっとこの強烈な殺気に身動き一つできないだろうと思っていた。
その姿を見るまでは。
扉は開き、向こうに居る人物の爪先がコツ、と音を立てて前へ出た。
「…え…」
「玲子…!!」
「うそっ…」
この場に居る人物を探るように、ゆっくりと足を進めて少しずつ姿を現していく。扉の向こうから恐ろしいほどの殺気を放っていたのは、今はいないはずの玲子だった。
『…その声、ラビ、リナリー?』
聞き慣れた声が耳に留まり、安心させる。間違いなくこの声は玲子だ。ひたすら喜びが込み上げる。ただ、彼女には不釣り合いな仮面が付けられていて、どんな表情をしているのかは分からなかった。
コツコツと音を立ててこちらへ歩んで来る。扉を抜け、そしてその姿を現した。
「おまっ…、そのカッコ…!」
玲子の姿を見ていち早く反応したのはラビだった。
「へそ出し…チラリズム…」と玲子の団服姿を見てぼーっとしている。今は失神している場合じゃない!と我に返り気力で持ち直すラビ。
「へぇ、そういう格好も似合うんだな」
扉の最も近くにいたのはティキ。玲子を見つけるとすぐ絡み付き仮面を触る。
「…こんなゴツいもん付けちゃって。顔見れないのが残念だな」
『…ティキ・ミック…っ』
「ティキでいーって」
玲子の顎を持ち上げながら笑うティキ。腕の中で捕らえられている玲子はもがくだけ。
『離せ!』
「えー?」
『"えー?"じゃないっ!』
玲子の腰に手を回し、逃げられないようにしていたのだが、予想以上に玲子が暴れるため、ティキは渋々離れた。
「本当に、お前っていつもタイミング悪いよな…」
ティキは玲子以外には聞こえないように言った。
方舟だって、もうとっくに下りたと思っていたのに。こんな所でまた会うなんて。この方舟は崩壊を始めている。そうなる前に連れて来いって千年公に言われてたっけ。
でもなぁ…。
建物が崩れていき、上から瓦礫などが降ってきているにも関わらず、ティキは悠長に考え事をしていた。
「エクソシスト狩りはさ、楽しいんだよね。玲子はその後でな」
ティキはエクソシストと一つ賭けをして、出口への鍵を放り投げ消えていった。崩壊は凄さを増し、足元さえ崩れはじめた。
「きゃあっ!」
「リナリー!」
うまく足を動かせないリナリーは足元と一緒に崩れ落ちていく。それに気づいたアレンはいち早く反応し、リナリーを救出に向かう。何とか間に合い、全員の生存が確認できる。
『…うっ…!』
荒い呼吸をし、地面に膝と手をついて苦しんでいる玲子がいた。
「玲子!?どうしたさ!」
『…っ、何でも…ない…!』
「んなワケあるか!」
ラビが手を差し延べていたが、玲子は自力で歩くと譲らなかった。フラフラと立ち上がり痛みに堪えているようだ。
「…玲子、もしかしてさっきの崩壊で怪我したの…?」
リナリーが心配して様子を伺うが、ふるふると首を横に振り心配はないと言った。
『…なんでもない』
大丈夫だから、と口元で笑うがそれこそ心配でならない。
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