story

□操り糸
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「こっの、ドアホがーー!!」


ものすごい形相をしてアレンに殴り掛かるフォー。
どこか集中しきれていなかったアレンは、フォーの巨大拳を避けきれずおもいっきり受けてしまった。派手な音を立てて壁にぶち当たれば、心配した蝋花が駆け寄ってくる。

体調が良くない、といえば良くない。頭はぐらぐらするし、なんでいつまでここに居なければならないないのかと苛立ちさえ覚える。早く戻らなきゃ、という焦りだって感じる。なのに、身体は思うように動いてはくれない。

それが歯痒い。


「テメェみたいなモヤシ一ッ生発動出来るか!!!」



…ぷつんっ



「ガーーーーーーーッ!!!!」

「ウォーカーがキレた!」

「ンっだこの野郎!やんのかコラァ!!」

「落ち着けっ、ただのケンカになっちまうよこれっ!」


フォーの一言で、何もかもがはじけ飛んでしまった。




「…すみません、取り乱してしまって…」

「気にしないでくださいウォーカーさん」


フォーが怒り退室してしまった訓練所は嵐が去ったかのように静かだった。


「ウォーカーさん、最近調子が悪いですね」

「すみません…」

「ああっ、そういう事じゃなくて、あまり気にしないでくださいって事です」


最近、調子が悪いのは自覚している。そして進歩の無い自分に嫌気がさしているのも事実。
もう、何も言い訳できない。
だって、調子が悪い原因を分かっていてこの様だから。いい加減フォーにも愛想尽かされてしまうかもしれない。彼女は彼女なりに付き合ってくれているのに。


「調子が悪い原因って…やっぱり、元帥の事ですか?」

「!」


元帥、ときいて違和感を感じた。だけどその違和感はすぐに消え、彼女の事だと理解する。もう、彼女の事だと理解するだけで、切なくなる。


「…気になります。でも、僕には権利がないですから」


僕には、玲子さんを気にかける権利はない。
だって、傷付けた張本人だから。


「…そんなことないですよ。そうですね、ウォーカーさんから見て、元帥はどんな方ですか?」

「どんなって…」

「優しいとか、不思議な人だとかあるでしょう?」


僕からみた玲子さんか…。

何の突拍子もない話に、考え込んだ。だって、改めて玲子さんについて考えたって、思い付かない。

いや、思い付かないんじゃない。

沢山思い付きすぎて、一つにまとめられないんだ。

あの人はいつだって優しくあって、温かくて、安心して、時に厳しくて、怒ると怖くて。笑顔が、可愛くて、とても綺麗で…。

それでいて、儚くて。

でも、泣いている姿は見たことがない。


「…だから、強い人だと思います」


勝手な思い込みの、勝手な想像だけど、それが僕の中での玲子さんだから。その強い人の涙は見たくない。
だから


「すみません。…少し、一人にしてください」


僕は彼女よりも強くなりたいと思う。



*****







それほど明かりがないこの空間に、小さな光がぽつぽつと続いている。

この長い廊下を渡れば、突き当たりにいくつかの部屋がある。廊下の奥から三番目。

そこに彼女は居る。いつものように瞑想か、精神統一かをして、静かに過ごしている。気が付けばそこに足が向かっていて、自然と早足になる。


『…お一人ですか?』

「李佳と蝋花なら他の仕事についてるよ」


くるりとこちらを向いて、優しく微笑む姿は、本当に戦場には不向き。この人には、こんな醜い争いの世界は似合わないと思う。

ただ、少し悲しい。

なぜなら、今目の前に居るこの人は、自分の目に姿を写すことが出来ないからだ。その見えぬ目には包帯が巻かれ、世界を拒絶しているように見えた。希望も何も無い、と自分自身が諦めてしまっている。

そんな感じだった。



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