story
□操り糸
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「調子の方は?」
『悪くないかな』
包帯は外されず、口元が笑っていた。顔の半分が見られないこの人は、何も見えない世界で何を思ったのだろう。
穏やかに、なるがままに時を過ごす。精神的な視力の衰えは、彼女を闇に取り込み、飲み込む。
『シィフさんはお二人と一緒じゃなくて良いんですか?』
「僕は君の担当だからね」
支部長に頼まれたと言えば、この人はそんな大袈裟な、とまた笑う。
だが、これは偽りだと、最近ようやく気付いた。この人は強がっている。そう支部長が言っていた。
その言葉を確かめようと見ていれば、誰もいない一人の時間はほとんど不安でいっぱいな顔をしていた。
「何かあったら聞くよ?」
不安でも焦りでも、何でも。
そういうと彼女はビクッと肩を揺らしごめんなさい、と言ってまた笑った。
「…なぁ」
「…何だ」
「あの二人、何か良い雰囲気じゃねぇ?」
「!?」
シィフ一人に任せたのは良いのだが、心配になって様子を伺いに来たバクとフォー。物陰からこそこそと覗いて見てみると、以外と月宮はシィフに心を開いているように見えた。
端から見たらまあ、なんだ。
その、良い雰囲気になっていたわけだ。
「あの二人、デキてたりしてな」
「何だとう?!」
「シッ!馬鹿、バレるだろ!」
フォーが慌ててバクの襟首を掴み力任せに屈ませる。ソロソロと首を出して二人の様子を見れば、ばっちりと目が合った。
「「「…あ。」」」
バク、フォー、シィフは目が合うと、少し気まずい空気が流れた。ただ一人、気づいていた玲子はクスクスと笑っていた。
*****
高い城の屋根の上。
千年伯爵を中心に伯爵が呼び出した沢山のアクマに囲まれているノア。城の屋根にある巨大な鯱に腰掛け、タバコをふかすティキ。
アレンウォーカーのイノセンスは壊したし、心臓にだって穴を開けた。生きているはずがないのに、セル・ロロンは生きていると譲らない。
「ティキぽん。イノセンスをナメちゃいけませんヨ」
「分かってますって」
「アレ以外のイノセンスは悪魔ですカラv」
「…分かってますって」
ティキはボーッとして眺めていた視線を少しずらしため息混じりに煙を吹いた。
イノセンス、ね。
千年公のアレ以外、と言うのが引っ掛かって仕方ない。アレが何なのか、正体を知っていても全く現実味を感じない。
本当にそうなのかと疑いさえするほどだ。千年公が言う事だから嘘ではないと思うが、例を見ないものだからな。信じ難い、としかいえない。
「千年公、アレって何?」
「僕ら何にも知らないんだけど」
「おやおやv話してませんでしたっケ?」
なにやら内緒話のような会話に興味をそそられ、ジャスデビが話に入り込む。先程叱られた事を忘れているようだった。
「そのうちティキぽんが連れて来ますよv」
「「本当に?」」
千年公は答えを言わずはぐらかしたように言う。連れて来るということは、どうやら人のようだ。
そう理解したジャスデビはニヤリと笑みを浮かべている。
「ティキが連れて来るっつーことは」
「女かもねっ、ヒヒッ!」
「…(女だけど)」
ぷぷぷ、とティキの方をチラチラと見ながら笑い合う双子。それを合図に、どういう奴か、名前は何だなど、双子の質問攻めが開始された。
「早く連れて来いよな!」
「デビ会ってみたい!ヒヒッ!」
「……ハイハイ…」
弱いものいじめだけはしてくれるなよ。
と願いながら、ティキは中国に一体のアクマとティーズを送った。
片手に、竹林で玲子から回収した黒い原石を転がしながら。
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