story

□戸惑い
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「…だが、君を月宮に会わせるわけには、」

「分かってます…」


だから、せめて僕に怯えないように距離を取って怖がることの無いように。

本当は、会いたいし、話したい。

でも、それはあの人にとって苦痛でしかない。僕の存在で苦痛を与えてしまっているのなら、それなら、僕がこの気持ちを押さえ込んでしまえば問題無い。

あの人を苦しめてしまうよりマシだ。


「玲子さんは…」


僕の存在を否定することは、彼女はしないだろう。彼女はいつだって優しい人だったから。


「…大切な人です」


あなたを苦しめてしまわぬように、僕はいつだってあなたの笑顔を望む。あなたの笑顔が見られるのなら、ぼくは自分の心を殺せる。

矛盾だらけの考えばかりだけど、本当に望むのはそれだけだから。


あの人が笑顔でいてくれるなら、それでいい。

あの人が苦しまないなら、それでいい。


大切な人が涙を流す姿は、見たくないから。



「ウォーカー…」

「…僕は、何がしたいんでしょうね…」


大好きな人だから、近づくのが怖いなんてね。大切だからっていう理由で、遠ざけるなんてね。

本当、矛盾してる。


アレンのその気持ちを感じ取ってか、バクは目をつむった。


優しい子だ。

その優しい思いに、どこか不安を感じる。彼は、彼女は、お互いが気にかけ合っている。
この優しい子達がなぜこのような悲劇を引き起こしてしまったのだろう。

周りから見れば普通の、思いやりのある子達だ。それが、こんな形で引き裂かれ、怯え合っている。

本当の理由は、分からない。

ウォーカーのイノセンスの暴走と考えるのが妥当だが、悲しいことだ。二人の理由を知って、ようやく怯えていたことが理解できた。

一人で悩んで、さぞ辛かっただろう。


「話してくれてありがとう、ウォーカー…」





*****




同じ時刻、一人広間に残る玲子は静かに精神統一をしようと心を静めていた。だが、いつものように一人になると途端に不安が増していく。

胸がざわざわと騒いで静めることは出来なかった。

どうしてもこの先の事を考えてしまい覚える不安感。まだ慣れない暗闇だけの世界への恐怖心。

どんなに繕った笑顔の仮面も、一人になれば脆く壊れる。一人になると弱くなる。それが悔しい。

弱い自分は嫌い。もっと強くなりたい。強かったら、こんなふうに怯えたりしないもの。こんな弱くなっていたら、本当にこの先役に立てなくなる。


(そんなの、嫌だ…)


強くなりたい。
弱くなりたくない。

強くなりたい。
一人は怖い。

強くなりたい。
強くなりたい。

この恐怖を拭い去る事が出来るなら、何だってするから。
だから、強く、恐怖に勝ちたい…。


ギュッと強く拳を握り締め、そうでありたいと願うだけだった。





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あとがき

強く見せて、余裕さえ見せても、それは虚勢であって。実は怖くて仕方なかった。そんな主人公でした。それが書けて今回はちょっと満足してたりします(^-^*)v

次はどうしようかな。
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