story
□戸惑い
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「…しっかしあの子、元帥ねぇ」
頭の後ろで手を組み、アレンのいる訓練所に向かう李佳とその二人。会話は自然と玲子の事になっていく。
「元帥ってもっとこう、偉そうで怖いのを想像してた」
「だね。あたしも、まさかあんな風に元帥がおちゃめ?なんて思わなかった」
あんなに怒っていた蝋花だったのに、今はケロッとして笑っている。これも多分、さっき笑顔で送り出してくれたから、その笑顔でチャラにしたのだろう。
「…あの笑顔はさ…可愛かったよね…」
「「……シィフ!??」」
予想外な発言をしたシィフに普通に驚く李佳と蝋花。
意外にも、シィフの頬はほんのり赤く染まっていたとか。
*****
バクはモニターを見ていた。
同じ画面のモニターには、二つの画面が映し出されており、右と左とに別れている。そのモニターに写されていたのは、異なる人物。
アレンウォーカーと月宮玲子だった。二人の特訓の成果は見てもすぐに分かるほど。明らかに二人の中で差が出ている。
月宮は着々と力を制御できるようになっており、また上の段階の特訓も受けられるようになった。
一方ウォーカーというと、反応は悪くないのだが明らかに攻撃性がない。イノセンスも発動出来ていないし、前途多難な状況だ。
この二人に、これだけ差がでるとは。それに、二人の間は何かがあった。
最近は月宮も怯えているようには見えないが、ウォーカーという言葉が出ただけでもビクッとするのは変わっていない。
ウォーカーもウォーカーで、月宮の名前に反応を示す。だが月宮について聞こうとはしなくなった。
この二人の間の事を聞くべきか、聞かないべきか…。迷うが、やはり聞いた方がいいのかも知れない。
「ウォーカー」
ゴーレム越しにアレンを呼べば、それに反応してくるりとこちらを向いた。
「特訓が終わったら話がある。来てくれないか?」
「あ、はい。分かりました」
アレンはそう返事をすると、再び特訓を始めた。
特訓が終わり少し落ち着いた所で、アレンはバクの所へと向かった。
「急に呼び出したりしてすまない」
「いえ」
それで、話って?と聞くと少し神妙な顔をして、僕が一番ドキリとする名前を口から出した。
「…月宮と何があったのか、それを教えてほしい」
真剣な顔でそう聞いてくるバクさんは、少し怖く感じた。
でもそれは、こちらの事を考えての事だろうから、反対できるわけもない。ギュッと拳を握り絞めながら、ゆっくりと息を吐く。
覚悟を決めて口を開けば、何とも情けない声が口から漏れた。
僕が玲子さんに会いたいけど会いたくない理由
それは
「…ぼ、僕、玲子さんをこの手で、襲ったんです…」
玲子さんは、アクマから受けた傷はなかった。あの人にあった傷はすべて、僕が付けたもの。
何故、と聞かれても、僕にも理由が全く分からない。腕が勝手に動いて、獲物を狩るように鋭い爪を何度も振るったんだ。
爪で傷を付けるたびに玲子さんは呻き声を上げて、気が狂いそうになった。
何がなんだか分からなかった。
「…あんな事、止められるなら止めたかった…っ」
止めようとしても、止まってくれなかった。嫌だと思っても、止まってくれなかった。
でもそれは、僕に力が無かったから。
「…玲子さんが生きてるって分かって、すごく安心した…」
でも僕には、彼女にかける言葉なんてない。
そんなこと出来ない立場だって分かっているから。会わない方が彼女の為だって分かってるから。
でも
「…会いたい…っ」
僕は、玲子さんに会いたい…。
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