story
□戸惑い
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「…本当に大丈夫なのか?」
開く事のない目はこちらを捕えることはない。顔だけが向けられ、その表情は苦笑いだった。
フォーと玲子の戦いを見て息を飲んでいた。元帥の戦い方はどんなものかと思い見ていたが、凄まじいものだった。
速さも、強さも、桁違い。
あれでイノセンスを少ししか開放していないのだからまた凄い。
「…やっぱり元帥って凄いんですね。私びっくりしました!」
蝋花は自分より背が高く、年下の元帥に心の底から感心していた。
『凄くないですよ』
「いえ!凄いです!フォーさんとの手合わせとかホントに凄かったです!」
『そんな事、…あの?』
「はい?」
『…顔、近いです』
玲子がそういうと、我に返ったように蝋花は慌て出し、近すぎだった距離を離した。
「すみません!顔がよく見えてなくて…」
しょんぼりと肩を落とす蝋花は眼鏡どこに置いて来たんだろう、と呟いていた。確かに今蝋花は眼鏡をしていない。だが、意外にも眼鏡は見つけやすいところにある。
その落ち込んでいる蝋花を見てシィフと李佳二人は同時にため息をついた。
「蝋花、」
『…?蝋花さん』
「はい?」
顔を上げて玲子を見ると、手が頭の上にぽん、と乗せられた。
『ああやっぱり…』といって微笑を浮かべる玲子。
『蝋花さん』
「はい」
『これは何でしょう?』
悪戯っ子が笑うように、玲子も蝋花の眼鏡を見つけていたずらな笑顔を浮かべる。
ああ!と声を出す蝋花に玲子は古典的な人だなぁと笑っていた。
『まさか本当にあるとは思いませんでした』
「恥ずかしい…」
「これで二度目だな」
ありきたりな事をやってしまったと、さらに小さくなる蝋花。また頭の上にかけて存在を忘れていたらしい。
『慌ててただけですよね?慌てて粗相するのは、誰でもよくある事です。眼鏡無くなった訳じゃなくて良かったじゃないですか』
ニコリとしながら蝋花に眼鏡をかけてやる玲子。顔の距離が近い上に、そんな事をされたものだから、いやでも玲子の顔のドアップが見えてしまう。
いくら女同士だといっても、恥ずかしさは残るわけで。蝋花は顔一面を真っ赤にして押し黙ってしまった。
蝋花の反応が空気や肌から伝わって来たらしく、玲子はニヤリと口角を上げた。そして蝋花の耳元に寄り、玲子は囁いた。
『顔が近いと多少恥ずかしいでしょう?』
「…っ!?」
それを言うと耳元から離れ、またニッコリと笑顔を作り、分かりました?と首を傾けた。その玲子の言っている意味を理解すると、さらに蝋花は顔を赤く染めた。
「…いっ、今のわざと!?」
蝋花は、先程自分の眼鏡が無くて玲子に凄く近付いていた事を思い出した。
『はい。勿論』
意地悪にそういうと、蝋花は勿論怒るのが当たり前であって。しかしそれをしなやかに躱すのが玲子でもある。もうどちらが年上なのか分からない感じだ。
「…そろそろ時間だね」
シィフがぽつりと呟くと、他の二人も顔付きを変えて頷いた。そろそろ、フォーとアレンの特訓の時間だ。
三人の中では、玲子の前ではアレンウォーカーという言葉を出さないで場所の移動をするのが暗黙の了解になっていた。
「それでは元帥、また後ほど」
『はい。いってらっしゃい』
笑顔で科学班三人を送った。
三人はそれぞれ玲子に頭を下げ、その場を後にした。
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