story

□戸惑い
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手加減したとはいえ、ガードしていない脇腹にもろに入ったんだ。

よろりとする身体を無理矢理立て直す事が出来るようだから、まだまだいけると思うが、


「(…バクに見られたら悲鳴もんだな)」


そう、あたしこいつは目が見えない事完璧に忘れてた。

やべぇよ。


「悪い!つい……!」


ジャキッ


『隙あり、です』


うろたえなければ良かった。

謝らなければ良かった。

こいつ、全く怯んでやしない。

むしろ、やる気を出して来ている。


「…ソレ、反則じゃねぇかよ」

『ふふっ』


得意げに笑う。
笑い事じゃないだろ、これは。
いや、流石に驚いた。だってよ…


「刃が伸びるなんて聞いてねぇぞ」

『…あれ、言ってませんでしたっけ?』

「言ってねぇよ!」


手に同化させた刃が伸びてフォーの頬を掠めていた。伸縮が自在なんて知らない。


『あ、あとコレ、』

「うぎゃぁああぁ!?」

『刃が飛びます』

「言い終わる前に飛ばすな!!」


寸前のところで避けたから良いものを、こいつ、正確に頭狙ってきやがった。有り得ねぇ…。
脳天に風穴開いたらどうするつもりだ。


『…すみません。位置は分かっても部位までは正確に分からないので』

「…うそだろ…」


勘で打ち込んできたのかよ。
それこそ、有り得ねぇだろ。








「…ハァ、ハァ…お前、はしゃぎ過ぎ…」

『…はっ、はあ…すみません』


何時間くらい手合わせをしていただろう。時間の感覚が分からない。
李佳に時間を聞いてみれば、まだ始めて一時間経ってるか経ってないかの時間だという。あれだけ動いていてまだそれくらいしか時間が経っていないのか。

時間の進みが遅く感じる。

それほど集中していたのだろうか。


「ちょ、タイム!」

『…?』


息切れは僅かにしているものの、まだやれそうな感じだ。だけど始めたばかりの特訓だから、身体の負担も考えてこの辺で止めておいた方がいいのかも知れない。


「月宮、今日はこの辺にしておこう」

『え…、あ、はい』

「あまり急ぐな。お前は順調だよ」


焦っているように見える訳じゃない。だけど、こいつ、身体を酷使しすぎていないか心配になる。
こいつの一日は、あたしとの特訓が5時間位だとすると、他の時間は全て精神統一に当てている。

この精神統一は、どうやら影の範囲を広げるのに必要な訓練らしく、見ていない所でこいつは一人で訓練している。当たり前って言えばそうかもしれない。

こいつは目が見えないんだ。

それを補えるだけの力は欲しいはず。だから毎日欠かさずしている。でも、その訓練がどれだけの負担がかかっているのかは分からない。


「あんま無茶すんなよ?」

『大丈夫ですよ』


なんだろう。
心配して言ってんのにそうやって笑うから、つい許してしまうんだよなぁ。


『じゃあ、精神統一しますね』

「いやいや、休めよ」





*****




「…うっ…!」


左目が疼く。

最近頻繁に起こってるこの目の疼き。近くにいるのか距離感はわからない。ただアクマを感知して疼くだけ。

嫌な感じだ。

ざわざわと胸騒ぎまでしてきた。
夜にだったりフォーと特訓している時だけじゃないんだ。アレンは一人でイノセンスと格闘している中、左目が疼きその場に崩れ込んでしまった。

近くを飛んでいたゴーレムからはバクの心配した声が聞こえていた。





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