story

□気付き
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あれから、いつものようにこの静かな空間で精神統一をしている。
それを行う毎に、集中力は増してイノセンスの存在も近く感じて来た。

だが、まだイノセンスは表に出てこようとしなかった。今まだ、体内部を治しているのだろうか。見た目は綺麗に塞がっているが、中はまだ完全には治っていないらしい。

それを治すために、イノセンスは傷に集中しているようだ。

だからまだ身体を動かす特訓はしてはいけない。というか出来ない。
そのためかはよくわからないが、最近、また夢を見るようになった。

忌まわしいあの夢ではなく、新しい、靄がかかったようなよくわからない夢。夢が自分に語りかけて終わる夢。それが何を表わしているのか、よくわからない。

ただ、夢の中の声は「まだ、まだ、もう少し」と繰り返し言っているだけ。何がまだで、何がもう少しなのかよくわからない。もやもやしたままの夢。

それから夢の状況は進む気配もなかった。


『…だめだ。集中できない』


今日はやけに夢が気になってしかたがない。前にも夢に躍らされてしまったが、今回も何かを予知しての事なのだろうか。この夢の事は話すべきか、どうか。わからないまま閉じていた瞼を開く。


『――…』


何気なく開いた目だった。それでも、ただそれだけで酷く傷付く。

現実が重くのしかかる。

みえない。

心臓が鷲掴みされているように痛く感じた。鼓動は不安から痛いほどはやく打ち付けている。まだ、やっぱりこの状況に慣れていないんだな。

何気ない動作の一つでこんなに動揺しているなんて。受け入れたくないんだな、きっと。この目が見えない不安は。

これからは、前のように自ら進んで先頭を切って戦いに行く事は出来ない。できるのはせいぜい後ろで皆のサポートくらいだろう。サポートをする側は、自分と仲間とを気をつけなければならない。

そのサポートでさえ、まだできるかわからない。サポートでは、多少の事では揺るがない強い精神が必要になる。

今はその土台作りをしている。

しかし、こんな何気ない動作で揺らいでいるうちは、戦場では足手まといにしかならない。


『…もっと、強くならないと…』


戦うことは、自分の存在理由。




*****




「……は…はぁ…はぁっ…」


バクの許可を得て、特訓を重ねるアレン。あれからどれくらい特訓をしただろう。何度も何度も発動を繰り返しても、形を作ってすぐに消えてしまう。いつまで経ってもイノセンスは粒子状から変化する気配はなかった。


「くそ…っ!よし!負けないぞイノセンス!」


勢いよく立ち上がり意気込みをしたとき、


「うご!」


頭に固いものがぶつかる感触がした。

振り返ってみて見たら、それはバクさんだった。盛大に資料を撒き散らして倒れ込んでいる。痛いじゃないかと血をダラダラと流しながら迫ってくるときの迫力といったらもう、怖いものだった。


「ああ拾いますね」


がさがさと散らばった資料をかき集めた。

…のは良いのだが、


(……これ…)


「わああああああああ!!?」


資料だと思っていたものからはちらり、とも言い難い。がっつりと目に飛び込んで来たのは大量のリナリーの写真だった。
写真に写るリナリーはどれもこちらに気付かず、というものが多く自然体でこちらに視線を向けているものはなかった。

…つまり、これは盗撮…?

そう疑いかけて、本人はそれを察したのか、断固として盗撮ではないと言う。
乱暴に僕から奪い取った写真は、勢い余って多少の写真が零れ落ちていた。





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