story
□気付き
2ページ/6ページ
2、3枚の写真が零れ落ち、ひらひらと優雅に空中を舞う。スッ、と滑るように一枚の写真が僕の足元に来た。
これもまた、リナリーの写真で…。
…?
違う。
この写真に写っているのはリナリーではない。
ベッドに横になり、静かに目を閉じている女性。頬には傷を庇うガーゼが貼られ、額を中心に包帯が巻かれている。
首から下も、傷を手当てしたように多数のガーゼと包帯が巻かれていた。
黒髪は白い枕に舞うように散らばり、よく栄えていた。
「…こっ、こら!返さんか!!」
その写真に見入っていた僕は、乱暴に奪われた写真を目で追うしか出来なかった。
あの写真に写っていた人。
その人が横になっていたベッドは、白く医療品も揃えてあった。僅かに写っていた壁の模様や、明るさ医療品の揃え具合は…ここ、アジア支部の医療施設部に似ていた。
似ていた、というよりも、実際ここアジア支部で撮影されたものだろう。なぜなら僕もその部屋には見覚えがあるからだ。その部屋は、僕も眠っていた部屋だったから。
でも、問題はそんなことじゃない。
「…バクさん」
「な、なんだ?」
「…玲子さん、月宮玲子はこのアジア支部に、居るんですか…?」
そう。
写真に写っていたその人はどこか見たことのあるような人だった。
大量のリナリーの写真を見たばかりだったから、一瞬誰だか分からなかった。
いつも髪を一つに結んで、解いていることが少なかった彼女だから見慣れず、気付くのに時間が掛かったのかも知れない。
その人が傷の手当てを受けて、ここの医療施設に管理されている。その玲子さんが写っている写真を見て、とてつもない後悔と胸の傷みが込み上げて来た。
どうしてだろう。
今物凄く玲子さんに会いたくて仕方ないのに、会いたくない、とも思っている。会いたいのに、会いたくない。怖いんだ。
どんな顔をして僕を見るのか。どうしたら彼女は許してくれるのか…。
…いや、許してもらえなくていい。
許しを請うより、あなたに責められ、罵られた方がどれほど楽か。でもそれは、僕の逃げにしかならないのだろう。
責められた方が楽だなんて、じゃあそうしたら玲子さんはどうなる。僕の事を大切な仲間だと言ってくれたあの優しい人。その人が仲間だと信じていた僕に、心と身体もろとも傷付けられたんだ。
あの人が一番、辛いに決まっている。
でも、僕が出来ることといえば、何もない。
「…月宮ならここにいる」
「…僕、」
「だが彼女には会わせられない」
「…!」
今の彼女に君を会わせるのは危険だ。君にとっても、彼女にとっても。バクさんはそう言ったまま黙り込んでしまった。
「…そう、ですよね…」
会わない方がいい。
会いたいけど、僕は貴女を傷つけた。そんな僕に会ったって、困るだけなのだから。これ以上、僕に優しくしてくれたあの人を、傷付けたくない。
…ごめんなさい…。
ごめんなさい、玲子さん。
僕は、貴女に何一つ返してあげることの出来ないちっぽけな存在だ。
*****
『…くっ、はぁっ…うぐっ!』
身体の痛みが、全身を覆う。
精神統一をしていたのに、急に身体が痛みだしたのだ。見た目は治っていても、やはり内側は治っていないのだろうか。身体中の激痛でうずくまり、痛みに耐える。
『…ああっ!…痛っ……ぐっ!』
この痛みは感じたことが無い。
前にもイノセンスの力で治癒された事があったが、こんな痛みを発してた事はなかった。
それよりも、アクマから受けた時の傷の方が治りが早かった。アレンが神田から受けた傷のように、イノセンス同士の傷は治りにくいのだろうか。
そしてこんなに体中が軋むように痛いのだろうか。
.