story

□気付き
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2、3枚の写真が零れ落ち、ひらひらと優雅に空中を舞う。スッ、と滑るように一枚の写真が僕の足元に来た。
これもまた、リナリーの写真で…。

…?

違う。
この写真に写っているのはリナリーではない。

ベッドに横になり、静かに目を閉じている女性。頬には傷を庇うガーゼが貼られ、額を中心に包帯が巻かれている。
首から下も、傷を手当てしたように多数のガーゼと包帯が巻かれていた。

黒髪は白い枕に舞うように散らばり、よく栄えていた。


「…こっ、こら!返さんか!!」


その写真に見入っていた僕は、乱暴に奪われた写真を目で追うしか出来なかった。

あの写真に写っていた人。

その人が横になっていたベッドは、白く医療品も揃えてあった。僅かに写っていた壁の模様や、明るさ医療品の揃え具合は…ここ、アジア支部の医療施設部に似ていた。
似ていた、というよりも、実際ここアジア支部で撮影されたものだろう。なぜなら僕もその部屋には見覚えがあるからだ。その部屋は、僕も眠っていた部屋だったから。

でも、問題はそんなことじゃない。


「…バクさん」

「な、なんだ?」



「…玲子さん、月宮玲子はこのアジア支部に、居るんですか…?」



そう。

写真に写っていたその人はどこか見たことのあるような人だった。
大量のリナリーの写真を見たばかりだったから、一瞬誰だか分からなかった。

いつも髪を一つに結んで、解いていることが少なかった彼女だから見慣れず、気付くのに時間が掛かったのかも知れない。

その人が傷の手当てを受けて、ここの医療施設に管理されている。その玲子さんが写っている写真を見て、とてつもない後悔と胸の傷みが込み上げて来た。

どうしてだろう。

今物凄く玲子さんに会いたくて仕方ないのに、会いたくない、とも思っている。会いたいのに、会いたくない。怖いんだ。
どんな顔をして僕を見るのか。どうしたら彼女は許してくれるのか…。

…いや、許してもらえなくていい。

許しを請うより、あなたに責められ、罵られた方がどれほど楽か。でもそれは、僕の逃げにしかならないのだろう。

責められた方が楽だなんて、じゃあそうしたら玲子さんはどうなる。僕の事を大切な仲間だと言ってくれたあの優しい人。その人が仲間だと信じていた僕に、心と身体もろとも傷付けられたんだ。

あの人が一番、辛いに決まっている。
でも、僕が出来ることといえば、何もない。


「…月宮ならここにいる」

「…僕、」

「だが彼女には会わせられない」

「…!」


今の彼女に君を会わせるのは危険だ。君にとっても、彼女にとっても。バクさんはそう言ったまま黙り込んでしまった。


「…そう、ですよね…」


会わない方がいい。
会いたいけど、僕は貴女を傷つけた。そんな僕に会ったって、困るだけなのだから。これ以上、僕に優しくしてくれたあの人を、傷付けたくない。

…ごめんなさい…。

ごめんなさい、玲子さん。

僕は、貴女に何一つ返してあげることの出来ないちっぽけな存在だ。





*****





『…くっ、はぁっ…うぐっ!』


身体の痛みが、全身を覆う。

精神統一をしていたのに、急に身体が痛みだしたのだ。見た目は治っていても、やはり内側は治っていないのだろうか。身体中の激痛でうずくまり、痛みに耐える。


『…ああっ!…痛っ……ぐっ!』


この痛みは感じたことが無い。
前にもイノセンスの力で治癒された事があったが、こんな痛みを発してた事はなかった。

それよりも、アクマから受けた時の傷の方が治りが早かった。アレンが神田から受けた傷のように、イノセンス同士の傷は治りにくいのだろうか。

そしてこんなに体中が軋むように痛いのだろうか。






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