story

□気付き
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痛い…。

痛い…っ!

身体が軋む。




――痛イノ?

『!』


ふとかけられた声に誰と振り返っても誰もいない。気のせいかと思ったが、そんなはずも無い。
なぜならこの声は、何度も夢の中で聞いた声だから。

その声が、夢の中だけでなく意識のある昼間の時に聞こえたことに驚いた。


ネェ、痛イノ、ドウシテカ教エテアゲヨウカ?


この声は、この身体の痛みの原因を知っているかのように言葉を促していく。


身体ガ痛イノハ、君ガ目覚メニ拒否シテイルカラダヨ。勿論、君ガ意識シテ拒否シテイルワケデハナイケレドネ。

『意識しないで、拒否…?』


何を拒否しているのだろう。この声の言いたいことがよく分からなかった。


僕ノ声ニ耳ヲ傾ケテ、拒絶ヲシテハナラナイヨ。チャント聞イテ、受ケ入レテ。

『…何を…っ!?』


この声が聞こえて、気付いた異変。
先程まで痛くて仕方がなかった身体の痛みが、みるみるうちに消えていく。その声は、満足したようにフフッ、と笑いありがとうと囁くように言った。


君ガ受ケ入レテクレタオカゲデ、僕モ抵抗ガ無クナッテ軽クナッタヨ。


何を、言っている分からなかった。

どうしてこの声が聞こえるのか、この声はどうして自分でも気付いていなかった“拒否”している事が分かったのか。この声の主は何なのだろうか、など、嫌な予感が過ぎっていく。


オ礼ニ、君ノ“力”ヲ目覚メサセテアゲルヨ。

『…なっ』


何なんだ、いったい。

この声が言葉を発した瞬間、一度だけ心臓が強く打ち付けた。そして、その大きな鼓動が打ち終わると、身体がじわりじわりと熱くなっていく。

その熱が地面に伝わり、広がっていく。


『…!?』

…気ガ付イタ?


この声の言いたいことがいやでも伝わって来て、どう反応すれば良いのか分からなかった。この声が言っていた力を目覚めさせるということは、こう言うことだったのか。

熱が落ちていった地面からは、自分の感覚が伝わってくる。まるで、自分の熱を落とした影が自分の一部であるように感じる。

この影の中になにか異物が侵入すれば、それを察知することが出来そうな、そんな感じがする。簡単に言い換えればこの力は、センサーのようだ。


コノ“力”ハモウ君ガ自在ニ使エルモノダカラ、好キニ使ッテイイヨ。精神統一スルノモコノ“力”ヲ強メルイイ方法ノ一ツダカラ、コレヲ使イコナセルヨウニナルト君ニモ不自由ハ無クナルデショウ?


生かすも殺すも君次第、というと、声は静かに引いていった。

目が見えないなか、この新たな力は本当に有り難かった。影の部分は自分のテリトリーのようなもので、障害物や自分以外の人をすぐに察知することが出来る。

この力のおかげで、目が見えないブランクがありながらも、それを補えそうな気がして来た。

動く事が可能になった今、少しでも感覚が鈍った反射神経を取り戻したい。この反射神経が今後の戦いの中で生命線になるのは間違いないだろうから。

自分の中にあった不安は薄れ、希望が指して来た。目が見えない恐怖感はまだ残ってはいるが、戦えるのなら、それでいい。

だけど、
なんで、あの声はこんな力を与えてくれたのだろう。

こんなすごい力を使わず、持て余していた自分に目覚めさせるなんて。イノセンスの力なのだろうか。

それは良く分からないが、まずはこの力を使いこなせるように、新たな修業が必要となる。玲子は静かに息を吐き、影に集中した。





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