story

□まだ
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…月が近い…。

すべてを飲み込むように、辺りを明るく照らす月。


まだ、ダメだ。
それ以上近づくな。

ぼくはまだ…







「遠くの方で強い光が見えた。どれだけ探しても見つけられないの…!」


きっとアレン君の事だから傷だらけでいるはず。早く見つけて手当をしないと。

リナリーはラビの袖をギュッと握り最悪の事態にならないように祈った。


「…見つかるさ、きっと」


リナリーはアレンとしか会っていないから気付いていないかもしれない。さらわれたのはアレンだけじゃないこと。早く見つけないと、アレンも、玲子も身の安全が危うい。


遠くの方で爆発音が聞こえ、大きな煙幕が見えた。よく見るとアクマが何かに攻撃していたうよだ。
煙幕から小さな光がキラリと飛び出すとアクマも後を追うようにして攻撃を続けた。


「ティムキャンピー!」


煙幕から現れたティムキャンピーを見つけリナリーはホッとした。
ティムキャンピーがここにいるということは近くにはきっとアレンがいる。
残りのアクマはラビが片付け、ティムキャンピーとの再会を果たし案内を頼む。


とある竹林の仲間で着たところでティムキャンピーは止まった。


「ティム、映像を見せてくれ」


リナリーが手にしていたティムキャンピーを、ラビは受け取り探すためのヒントになる映像を求めた。ティムキャンピーは口を上に向けて開くと、小さな映像が流れ出した。それを見ればアレンの足どりが分かる。

その映像が進むにつれ、ラビ達も足を進める。まず最初に確実に探せるであろうアレンを見ていると、アレンはノアにも、玲子にも会っていることが分かった。




「…っ?!」

「うそ…っ」


ティムキャンピーの映像からは信じがたいものが目に飛び込んで来た。


なんでアレンが玲子を傷つけているんだ?


「アレン君…っ、何で玲子を…」

「…っ」


ひどいありさまだった。

一度目に加えた傷の場所をまた同じく傷つけて広げて、何度も何度もアレンは玲子を襲っている。リナリーは見ていられなくなり顔を伏せてしまった。


何でこんな事になっているのか、全く見当がつかなかった。

ただ、アレンと玲子がいたであろうその場所には、血液が固まってパリパリに乾いているだけ。


「ここにいたんだ…」


アレンも玲子も。

でも残っているのは血の跡だけ。

二人の姿はどこにも見当たらなかった。

そこに落ちていたスペードの1のトランプを拾うと、ラビの無線に使者が来たため戻れという連絡が入った。ラビ達は港に戻った。

痛々しい血の後を残して。



港に着くとアクマとの戦いで傷を負ったブックマンとクロウリー、アニタ達が待っていた。見慣れない服装の人物が中央に立ち、久しぶりとリナリーに声をかけるとフードを脱いだ。


リナリーとは顔見知りのようだ。

その人物はサモ・ハン・ウォンと名乗ると急ぎの伝言があると言って口を開いた。


「こちらの部隊のアレン・ウォーカー、並びに月宮玲子は、我らが発見し引き取らせていただきました」


ウォンの言葉に喜びを表したリナリーだったが、その喜びは長くは続かなかった。


「…アレン・ウォーカー、月宮玲子とは、中国でお別れです」


その言葉が何を意味し、何を伝えたいのかすぐに分かってしまったリナリーは、絶望を感じ涙を流した。


「リナリー」


アレンはイノセンスを失ったんだ。
どちらにせよもうエクソシストにはではなくなってしまったんだ。

それに玲子までも傷つけて…。


何がどう間違えてこんな結果になってしまったのか分からない。全く分からない。
だって、玲子が、何故アレンに攻撃をされなくてらならないのだ。


少しだけ、アレンが憎くなった。


リナリーの気持ちは分かる。辛いし、悲しい。それでも、ここは戦場。切り捨てなければならないんだ。


「俺達は前へ進まなきゃならないんだ」



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