story
□デリート
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『悪いけど、どちらもさせない』
「ヒュー、カッコイイね」
仲間も人も、みんな守る。
咎落ちだって、守りたい。
止めてみせる。
玲子は無駄に強張った身体の力を抜き、戦闘体制を取る。
ぐっと足を踏み込み、その一瞬にイノセンスを発動し、ティキを一度動けなくさせると次はクナイを同化させ、刃を振り下ろした。
「…っ、とんだじゃじゃ馬だな」
目にも留まらぬ早さとはこの事だろうか、とティキは腹部を押さえながら苦笑する。その腹部からは赤い色が少し滲み出ていた。
「お前とはやり合う気はないんだ」
『出来ることなら、あたしもだ』
チャキッと刃を鳴らせて言う玲子に、本当にそう思ってんのかよとティキは笑う。
「…見てみろよ、あれ」
傷口は浅いが、じんわりと汗をかきながらティキは顎で視線の先を促す。その先は先ほど見たばかりの赤い空。
『そんなっ…』
ぐらりと傾いた巨体が大きく光を発して近くの森に落ちていく。光は段々小さくなっていき、最後には見えなくなって行った。
「…まずはあっちが先だな」
『なっ…!?』
咎落ちの消えて行った方向にティキは消え、玲子はその影の後を追い掛けた。
*****
「スーマン…?」
咎落ちとなったスーマンをイノセンスと切り離す事で助けたアレンは、スーマンの肩を叩く。
しかしスーマンからは返事が帰ってくる事はなく、ただ座っているだけの人形のようだった。
生気がなく、反応も、心もない。
生きているが心は死んでいる。
イノセンスは虚しくアレンの掌の内で光を放つ。救えたはずの命からは何も返ってこない絶望。
しかし、生きていさえいれば希望も見えてくるはず。今はまだ生きているだけで十分だ。
この人をホームに返そう。
ホームなら、なんとかして元に戻れるかもしれない。意識を取り戻せるかもしれないんだ。可能性は0じゃない。
帰そう。
一つの希望が生まれ、ティムキャンピーにリナリー達を呼ぶように頼んだときだった。
スーマンは頭部から異様な膨らみを作り、パンッと音を立てて形を崩す。スーマンは内部から打ち破られ食われるように、人の姿を消してしまった。
「バイバイ、スーマン」
何が起こったのかわからなかった。人の姿は消え、変わりに後ろから低い声が聞こえた。まるでスーマンがそうなることを知っていたかのような、ひどく落ち着いた声音で。
振り返れば、黒服で身を包んだ男が立っていた。
「ノ…ア」
彼が声をかけるとスーマンだったものの中からいくつもの蝶が飛び出した。スーマンはその蝶に食われるようにして姿を消した。
「お前…!?何した…っ」
顔が強張るアレンに対して、今田に飄々とした態度が変わらない男。その態度に怒りが込み上げ、気付いた時には相手に平手を加えていた。
この男がしたことは見れば分かることで、それでもまだ信じたくないと思っている自分がいる。
「そりゃ敵なんだし殺すでしょ?」
当たり前のように答える事にひどく頭を打ち付けられる感じがした。
敵だから殺す。
それでも、自分がもっともっと強ければスーマンはこんな事にはならなかった。全ては自分に力がないためだ。
目の前の男は、脅しながらアレンの心臓を掴む。自然と心拍数は上がり、恐怖さえ沸き上がる。けれど、こんな男になど負けたくない。
こんなところで死んでなどいられないんだ。
「シラけるね」
盗りはしない、手袋が汚れるから、そう言って男は胸から手を引いた。そして自分がとある人物を探しているというと、首を掴み問いかけた。
「少年はアレン・ウォーカーか?」
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