□明ける
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「新しい時が始まる?」


クロスはそういった。

人々は疑問でならなかった。
何故玲子を棺から抱き起こし、棺だけを焼いたのか。
固く閉ざされた瞼はもう開く事はないというのに。彼女の冷たい肌がそういっていた。それを先程、この手で実感したばかりだというのに。

クロスが言っている言葉の真意を誰もが理解出来ずにいる。






「理解出来ねぇなら見てろ。

オン…、a(アバタ)、u(ウラ)、m(マサラカト)…」


急に魔術の呪文を唱えるクロス。クロスがそれを唱えると、一瞬で霧は晴れ冷気は遠退いていく。そして一時な眩しい光が辺りを包んだ。



そして眩しいその光が収まりはじめ、元の明るさに戻りつつある、その時だった。






玲子が目を開けた。





クロスの腕の中で目を閉じていた彼女は、瞼を震わせゆっくりと開かれる。
クロスに抱き抱えられながら、玲子は。



「―――…っ!!」



背中をクロスに支えられながらも身を起こした玲子の姿が見えた。信じられない光景に息をのむ。



「…うそ…」



確かに検出された血液は致死量を超えていたはずなのに。確かに死んだはず。皆の前で、残酷な、公開処刑をされたはずなのに。誰もが彼女の死を疑わなかった。

しかし間違いなく、目の前には起き上がっている玲子がいる。


「コイツは死んでない。仮死状態なだけだったんだよ。なのに何やってんだお前ら」


クロスのさも当然だろうという態度に唖然としながら、視線は玲子に向かう。

あの黒い炎は、まだ玲子が身に纏うダークマターの気を焼き消すためのもの。ダークマターの気と反応した炎が黒く染まったということだった。

“コイツ”は死んだ、とは言ったが“玲子”が、とは言っていない。

アクマの玲子は死んだが、人間の玲子は生きている。


要は言葉の取りようだった。



起き上がった玲子は、まだぼんやりとしていて現状を把握出来ていないように見える。
そのうち、はっと気付いたかのように周りをキョロキョロと見渡し始めた。


『…え…』


自分は処刑されたはず。

本人も驚きを隠せずにいた。己の左右の手を見比べながら自分の格好、周りの状況を見て、自分の葬儀中だということが把握出来た。そう、自分は死んだはずなのだ。

それなのに、生きている。


『…なんで…』



何故、生きているのだろう。
心臓は確かに貫かれたはずなのに。貫かれた感覚もあったのに。あの時の痛覚を今でもはっきりと覚えているのに。

…なんで、生きているのだろう。

側で手を取り「クク」っと笑っているクロスを見上げる玲子。何故自分は生きているのか、それを聞くと、馬鹿かお前はと言われ頭をぐしゃぐしゃにされた。


「何のために俺が処刑をかって出たと思ってんだ?
アクマとして破壊する。そういわなかったか?」


ニヤリと口の端を上げるクロス。
確かに、二人で話している時にそういわれた。アクマとして破壊する。則ちダークマターごと自分の存在を消される。
そう思っていた。

自分の心臓はダークマターと深く絡み合っていたから、とそれを伝えれば、クロスは豪快に笑う。



「お前、俺を誰だと思ってんだ?」



その言葉は自信に溢れているものだった。

それもそうだ。彼は唯一、アクマの改造が行える者、クロス・マリアンだ。彼の手にかかれば、大概のアクマは下僕となる。それと似たようなもので、玲子のダークマターを改造するのもまた難しくはなかったのだろう。



「…じゃあ…!」

「本当に…っ」


今、ここにいる玲子は、
本当に本物で、


「復活祭に献花なんて必要ねぇだろーが」



その瞬間、わあ!と歓声が上がった。




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